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「ミライの種」中央大学大学院戦略経営研究科 中村博教授インタビュー 後編

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各分野における経営のプロフェッショナルたちが考える未来への戦略、未来への投資、そして未来像とは?過去から現在、そして未来の花咲くカギとなる「種」とはどんな姿なのか?その「歩み」を辿りながら「ミライの種」に迫ります。

前編に引き続き、今回、お話を伺うのは、中央大学大学院 戦略経営研究科 教授の中村博(なかむらひろし)さんです。
小売・流通業界の現状、日本での課題についてお話しいただいた前編に続いて、後編では日本の小売・流通業やメーカーのデジタライゼーション、未来の展望を中心に、お話しいただきました。

小売・流通業界のデジタライゼーション

前編では、日本ではOMOの事例がほとんどなく、データの活用方法がわからないことが課題だと伺いました。こういった課題はどのように解決していくことができますでしょうか。

「やっぱり“わからない”というのが課題なので、勉強することが必要ですよね。先進的な取り組みを進めている企業だと、AIやデータの扱い方を勉強する取り組みをしているところがあります。例えば、リテールAI研究会というものがあります。この研究会は小売、卸、メーカーなど、業種の垣根を越えた企業が参加する研究会で、AIをリアルの店舗でどう活用するかについてさまざまな実験、勉強会を行っています。福岡にあるトライアルカンパニーという小売企業が先導的にやっているのですが、小売だけではなく、メーカーや卸もみんな一丸となってAI活用を勉強することで日本の小売・流通業全体をよくしたいという雰囲気の勉強会です」

リアルの店舗にかかわる企業が異業種で勉強会をしているということでしょうか。

「そうですね。AI活用とかそういう最先端のデジタル活用、データ分析という分野では、基本的にはメーカーと小売の間で情報に昔のような格差がなくなっています。昔はメーカーが営業するときに、「今はこういうものが新しいです」みたいな情報を持っていてそこに情報の優位性があったわけですが、デジタライゼーションが進んでくると小売自体にデータが溜まってくるでしょう。そうすると、大体、世の中何が売れているかも分かるし、どんなものがこれから売れるのかも分かるので、情報の非対称性っていうようなのがなくなるわけです。だから、小売だけではなく、メーカー側もデータの扱い方について賢くなる必要があるわけです。したがって、大手のメーカー等では、リアルの店舗のデータを収集することを一生懸命やっている。でもしかしデータは溜めるだけじゃ意味がないので、分析をして、売れる提案につなげるものにつくり変えていかなきゃいけない。だから、そのためのデータベースと分析の仕組み、そして何よりもそれを活用できる人間。これが必要になってくるわけです。そこはデータサイエンティストみたいな人にサポートしてもらっているのですが、扱うデータがビックデータになってきているので、次第に人間では分析できなくなってきている部分もある。そこで、AIを絡ませながら分析をすることを小売だけでなくメーカーも一生懸命考えているんですね」

小売企業とメーカーの関係性が変わってきているんですね。

「変わってきています。小売とメーカーの関係でいうと、今述べたことに加えて、もう一方で小売業のDX化にメーカーがどこまでサポートできるかっていう世界があります。例えば、私の知り合いの営業部長は今、AI部長という肩書をもっていて、その方が言うには、『営業だから、小売業のバイヤーと会うわけですが、その関係性ってどうしても売り手と買い手の関係性なんだけど、DX化の話だと対等なんですよ。また、バイヤーじゃなくて、役員クラスと話をすることができるので、そこは結構、対等に話ができる。』とのことです。取引先との関係性をどうやってつくっていくかというのがすごく大事で、そこがメーカーとしては肝になります。そういう中で、メーカーもAIやデータ活用に詳しくなる必要があります。小売業では今のところ、デジタルのノウハウを十分に持っている人たちがまだ少ないので、メーカーとしてもそういうところサポートできる営業マンを育成しています。AI部長さんも、一生懸命AIを勉強しているわけです」

なるほど。そうなると、小売もメーカーも先ほどおっしゃられたAI勉強会のような取り組みが大事になってくるんですね。

「そういうことです。あとは、マーケティングの視点でいうと、これは仮説ですが、ネットで買うときはショッパーは合理的に購買の意思決定を行い、リアルの店舗で買うときは情緒的に購買の意思決定を行うと考えています。この情緒的に思いつきで買っちゃうというのを衝動購買というのですが、このような購買はリアルの店舗で買い物するときの方が多いのではないかと考えています」

確かにそうかもしれないですね。そこを可視化できるといいのでしょうか。

「そこがポイントになってきています。自分たちの商品をお客さんが、無意識で買ってくれる世界をどうつくるか。合理的に意思決定をするような買い方ではなくて、思わず買ってしまう仕組みをどうやってつくっていくかっていうのはすごく大事なんですね。衝動買いっていうのはいくつかタイプがあると思いますが、そこはこれからのテーマになってくると思います。情報システムはシステムで、それはそれで有用ですが、結局、買うのはお客さんなので、お客さんの気持ちがどうなのかっていうところはいろいろなやり方で深掘りしていかなきゃならない。それがないと商品は創れないし、売れない。心理学とかニューロサイエンスの話です。これまでのアンケート調査等から得られるデータの場合、聞かれた消費者は意識に残っていることしか答えられないので、無意識の行動については答えてくれない。これからのマーケティングでは、そういう無意識のデータも必要になってくると思います」

そういった無意識の行動に対するアプローチをしている企業はあるのでしょうか。

「まだ少ないと思いますし、これからだと思います。消費者が自分の欲求を言葉で表現するのが難しい部分を測定するアプローチです。例えば、AIカメラで顔の表情を撮って、お客さんが興味あるのかないのかを調べたり、血流などのデータから、商品のどの部分に興味を持ったかなどがわかったりすれば商品開発のヒントになる。私も店頭調査を行いますがお客さんは20分店内に滞在して買い物しているけど、言葉にして出すとほんのわずかな情報しか答えてくれない。例えば、『今日は鍋食べたいと思ったので鍋を買ったんですよ』とか、そういうことを言ってくれるんですけど、何が影響してその商品を購入したかは語れないし、買い終わった後は自分の行動を忘れていたりする。結局、お客さんに聞くだけではわからないことが多い。だから、DX化が進めば進むほど、そういう無意識の行動に対するデータの収集や活用が必要になってくると思います。どうすれば衝動購買を誘うような“楽しい売り場”を作れるのかを知るためのデジタル活用を進めることは、リアルの店舗ならではの強みを活かせる取り組みになると思います」

小売・流通業界のミライ

ここまで、小売・流通業界についてデジタライゼーションに関する取り組みを中心に様々なことを伺ってきました。中村先生はこれからの小売・流通業で伸びる企業はどんな企業だと考えられますか。

「まず、デジタル活用については間違いなくこれからの小売・流通業では必須になってきます。必須になるということは、それだけでは足りないわけです。単純なデジタル活用だけではなく、そこに+αの取り組みをしている企業が伸びていくと考えています。+αの取り組みには、商品開発まで行うような徹底したブランディングもありますが、多くの小売やメーカーが考えていくべきこととして、リアルの店舗ならではの強みを活かすようなDX化があります。それを実現するためには、単に自社ECを入れるなどではなく、AIなどの新しい技術で衝動購買の要因など今までとれていなかったところのデータを取得し、そのデータを活用してリアルの強みである“楽しい売場さ”を演出する取り組みができる、そんな企業が伸びていくのではないかと考えます」

最後にあなたのミライの種を教えてください。

「私のミライの種は”ショッパーの気持ちを理解できるマーケティング力”です。」
デジタル化が進むにつれてますます”ショッパーの気持ちを理解できるマーケティング力”が重要だと考えます。なぜならば、デジタルだけでは商品の価値を提供することはできないからです。


中村 博(なかむら ひろし)
早稲田大学商学部卒業後、経営学博士(学習院大学)、専修大学商学部を経て、2008年より中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授。専門分野はマーケティング。実務家時代に流通系シンクタンクで消費財メーカーおよび小売業のコンサルティングや教育を行ってきた経験を生かした、より実践的なマーケティング理論やマーチャンダイジング理論の開発や普及に努めている。

◆前編はこちらに掲載しています。

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