
デザインが支える、地域公共交通の未来
デザインが支える、地域公共交通の未来
| 人口減少と高齢化が進む地方都市では、鉄道やバスといった公共交通の維持が深刻な課題となっています。一方で、駅は「地域の顔」であり続けてほしいという住民の願いも根強く存在します。こうした現場で、利用者と地域、運営者の声を統合する「翻訳者」として活動するのが、JR西日本の特急「やくも」や土佐くろしお鉄道 中村駅などを手掛けてきた株式会社イチバンセン代表取締役・川西康之氏です。人口減少下で「この街に住み続けたい」を支える公共交通は、これからどのようなデザイン哲学を必要とするのか。Will Smart代表取締役社長の石井が、移動空間デザインが切り開くまちづくりの可能性について川西氏と語り合いました。 |
- 番組名
- 『まちと移動のミライコラボ』全文書き起こし
- 放送日
- 2026年1月25日
- ゲスト
- 川西康之 氏(株式会社イチバンセン 代表取締役)
目次
【オープニング】
石井: まちと移動の未来コラボ。Will Smartと街づくりのプロが描く、日本のこれから。
この番組では、「移動と街づくり」をキーワードに、日本の移動インフラや都市のあり方がこれからどう変わっていくのかを、第一線で取り組まれている方々と一緒に考えていきます。 私、石井は、Will Smartという会社で、交通・モビリティ・デジタルの力を使いながら、駅やバスターミナル、地域交通、観光モビリティなど、「移動」を基点に街を元気にする取り組みを全国で進めています。 この番組は、そうした現場のリアルと、これからの未来を繋ぐ対話の場として立ち上げました。この番組は、Will Smartの提供でお送りします。
【ゲスト紹介】
石井: 今回のゲストは、駅舎や鉄道車両のデザイン・設計で数々の受賞実績を持ち、地域の交通インフラの価値を高め続けている、株式会社イチバンセン 代表取締役 川西康之さんです。よろしくお願いします。
川西: よろしくお願いいたします。
石井: まず初めに、川西さんのご実績を私の方から簡単にご紹介したいと思います。 数々のお仕事をされてらっしゃいますが、例えば、JR西日本の特急「やくも」号、「WEST EXPRESS 銀河」といった観光列車から、神戸電鉄「花山駅」「大池駅」、土佐くろしお鉄道 中村駅などの駅舎リノベーション・設計まで、本当に多岐にわたるお仕事をされてらっしゃいます。こうしたプロジェクトの中で、川西さんが大切にしてこられたデザイン哲学や、お仕事のこだわりというところを、まずは伺いたいと思います。よろしくお願いします。
川西: はい、ありがとうございます。 私たちが、移動空間あるいはみんなで使う公共デザインというのが仕事として多いんですけれども。一番大事なことは、お客様が本当に欲しいもの、その土地、その場所、そこにしかないものを作るということ。その仕事に携わるにおいて私たち、デザイン・設計に関わる者は、市民や利用者のニーズを代弁する「翻訳者」として立ち振る舞う。あるいは、それを維持管理し続ける運営者・管理者の声もしっかりと代弁して、優先順位を客観的につけて、分かりやすく色や形をつけていくというのが、僕らの仕事かなと思っています。
石井: なるほど。 今おっしゃっていた、特に気になるのが「お客さん中心」というお話はよく分かりますが、その「利用者」の話、地域のための話というのはありましたが、そこがあえて独立して違うものとして定義されたというのは、まずはどういった思いからそういったことをおっしゃったのかなというのが気になりまして。
川西: 私たち、どちらかというと都会というよりは、人口がすごく減っている地域、先ほどご紹介いただいた「やくも」号というのは島根県・鳥取県、あるいは高知県の田舎の駅ですとか、あるいは鹿児島の隅っこの駅ですとか、人口が本当に減っていく地域は、正直、公共の交通というのは一番厳しい状況ですね。もう自家用車でいいじゃないかということになります。確かにコスト的にも利便性的にも自家用車があれば十分事足りるよと。 となると、例えば「駅は立派で地域のシンボルであってほしいな」というお声をたくさんいただくのですが、その方たちは誰も鉄道やバスを使っていない。
ですから、毎日何かしらの理由で自家用車やそういった手段が持てずに、やむを得ずバスや電車を使ってらっしゃるお客様・利用者と、鉄道・バスは使わないんだけれども地域の顔としての駅はこうであってほしいという、この2種類の方は確かに違います。
そこはきちんと整理をして、作業を進める必要がありますね。
【デザイン哲学と中村駅のリノベーション】
石井: なるほど。 やはり地方の駅になってくると、今お話にあったみたいに車を運転される方はなかなか利用する機会がないと。ただやはり実際に使われている方というのは、意外に若い方、特に学生さんのイメージって非常に強いんですけれども。そういった若い方が使いやすい駅というのは、具体的にはどういう駅になってくるというふうにお考えですか?
川西: 私たちが今からもう15年前になりますが、高知県・四万十市という四国の西の端っこにあります、土佐くろしお鉄道 中村駅を手掛けた時にはですね。「ここは中村やき、中村にしかないものを作ってくれや」と言われたのですよ。一方で「都会っぽいもの作れ」というお声もいただきました。もちろん人口3万程度ですから、普通運転免許証を取得している人たちは、ほとんど鉄道やバスを使っていただけない。鉄道やバスの主な利用者は、当然高校生以下か、お年寄りということになります。そこで私たち、思い切ってターゲットを絞ったらどうかと申し上げたんですね。
石井: なるほど。
川西: 東京のように何万人も利用する駅とかバス停ならばともかく、1日数百人しか利用しないうちの中村の駅だと、思い切ってターゲットを絞って、その空間がきちんと目的を持って、運営する側がユーザーに対してきちんとメッセージ性を持って問いかける。そういう方が私は効果がある。私たちの中村駅は「待合室」というのが改札の外にあります。2時間に1本しか来ないですから。北海道なんかもよくあるのですが、列車が来る10分前になって初めて改札口が開いて、それ以外の時間は閉じているというのが、四国や北海道の僻地は多いんですね。
石井: ありますね、体験したことあります。
川西: 改札の外の待合のほうがちゃんと空調も効いていて、駅員の目もあるので。一応特急の始発・終着駅なので駅員もいるし、そっちのほうが安全だと。思い切って「自習室」にしようと。
石井: 自習室。なるほど。高校生たちが、放課後に宿題をやったり、勉強できる場所ということですか。
川西: そういう高校生たちが、きちんと有意義にかつお行儀よく待てる駅にしようと。そうすると、若い人たちが勉強しているのを、お年寄りや大人たちは微笑ましく眺める。
そして中村の子らは、地元に就職先が限られているわけですね。つまり高校卒業と同時に、進学・就職で多くの方が離れてしまうのです。ぜひ都会に出ていただいて、都会の駅なんか今ほとんど座るとこがなくて、お金払ってコーヒーのお値段払えば座れるけど。
「中村よかったな」「中村帰りたいな」って思ってくださる、その「故郷(ふるさと)の良さ」を作るのが公共サービス・公共空間であってほしい、という説明をしたんです。
【人口減少社会と公共交通のこれから】
石井: まさに冒頭のご質問のお仕事の哲学が見事に反映された事例というのが中村駅だったと。一方で、次の質問に移りたいと思うのですが、冒頭もお話しいただきましたが、地域、特に地方部は人口減、日本全体が人口減という状況ですけれども、特に地方部は非常に人口が減っています。働く人も減っているという状況で、かなり厳しい時期に入ってきている公共交通ということになると思うのですが。 こういう状況下の中で、デザインが果たす役割というのは、改めてどういうものだというふうにお考えでしょうか?
川西: お客様と事業運営者といいますか、公共交通を運営・維持管理していく人たちと、新しい関係を作っていかなきゃいけないというのがデザインの役割だと、僕は常々思っています。
石井: 新しい関係。
川西: つまり、私たちが一番大切なことは、どんなに人口が減っていっても、ずっとこの街に住み続けたい。これが一番大事だと思うんですよね。
石井: そうですね。
川西: そのためには、自家用車以外の選択肢としての公共交通はどうしても必要だと。 一方で、運営に携わる運転手の人手不足であったりというのは話があるわけで、無人運転というものを広めていかないと、これからは厳しいだろうとなる。そうするとお客様・利用者が、その公共交通の空間や利便性に、少しお手伝い、お助けいただくことをしていただければ、その公共交通の維持管理やコストはグッとハードルが緩くなるんですよね。
【利用者と運営者が協働する未来】
石井: なるほど。具体的にお手伝いというのはどういうことになるんですかね。
川西: 例えばお年寄りやバリアフリーを補助するとかですね。これはものすごく大きいんですよね。
石井: なるほど。
川西: 例えば今「バリアフリー法」っていう法律があって、1/12あるいは1/20という緩やかなスロープをつけなさいという決まりごとがあって。エレベーターをほぼ全ての駅につけなさいというような決まりがあります。 しかしそれにはものすごいコストがかかって、維持管理と。でもですよ。車椅子をお手伝いする人が何人かおれば、実は安心して利用することができるんですよね。
石井: なるほど、そういうことですね。
川西: 今、国土交通省でも「お助け・声がけをしましょう」というポスターやいろんな案内を駅やバス停でされています。多分そういった影響もあると思うんですけど、人の「声がけ」「お助け」というのがお洒落で、かつ必要であるということ、僕はここをデザインの力で、なんとか作っていかなきゃなと思いますね。
石井: やはりそれはトライしていかれたいテーマの一つになりますか。
川西: 大きなテーマの一つだと思っています。もちろん、「教育」というんですかね、これはコミュニケーションの問題、コミュニケーションそのものだと思うので、なかなか我々の空間デザインだけでもダメだとは思います。
【エンディング】
石井: はい、分かりました。 今日は株式会社イチバンセンさんがこれまで手掛けてきた駅舎・車両デザインの実績と、日本の交通インフラが直面している課題に対して、デザインがどう向き合っていくかというお話を伺いました。 次回は、Will Smartとの共業を通じて、街づくり、まさに移動づくりに関して、デジタルが果たす役割について、またお客さんが協働で実際のインフラを作り上げていくというような、そういった未来のお話について伺っていきたいと思います。
最後にお知らせですが、今回の放送はradiko、当社YouTubeでご視聴いただけます。そちらもチェックしてください。
本日はどうもありがとうございました。
川西: ありがとうございました。








