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過疎化の現状と有効な対策:成功事例とこれからの対策とは

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かつて賑わっていた商店街がシャッター街に変わり、学校や病院の統廃合が進み、地域の伝統行事を支える担い手が不足する—このような状況は日本各地で広がっています。一方で、同じような課題に直面しながら、地域資源を活用し独自のアイデアで活性化に成功している地域もあります。地域再生を実現するためには人口増加だけではなく、その地域特有の価値を見つけ出し、持続可能な形で活かしていくことが重要です。

この記事では、過疎化の現状を整理し、全国の成功事例から対策のヒントを探ります。

過疎化の現状と直面する課題

日本では、多くの市町村が過疎地域に指定され、その割合は全国の市町村のほぼ半数に達し、近年増加傾向にあります¹
過疎化が進む地域では、住民の大半が高齢者となっている集落も多く、就労人口の減少が地域経済の縮小を招き、税収の減少や公共サービスの低下につながるという悪循環が発生しています。

出典¹:令和4年度版 過疎対策の現況(概要版)|令和6年3月 総務省 地域力創造グループ 過疎対策室

過疎化の定義

過疎化とは、人口の減少により地域の活力が低下していく現象を指します。法律上では「過疎地域の持続的発展の支援に関する特別措置法」(過疎法)において、人口減少率や財政力指数などの基準によって「過疎地域」が定められています。

過疎地域には以下の特徴が見られます。

  1. 若年層の流出による人口の大幅な減少
  2. 高齢化率の上昇
  3. 地域産業の衰退と雇用機会の喪失
  4. 財政基盤の弱体化
  5. 空き家や耕作放棄地の拡大

過疎化が特に顕著なのは中山間地域や離島、豪雪地帯などです。高度経済成長期から続いている地方から大都市への人口移動に加え、近年では地方中核都市からの人口流出も進み、さらに深刻化しています。

過疎化がもたらす問題点

社会インフラの維持困難
人口減少に伴う利用者の減少により、公共交通機関や学校、医療機関などの維持が困難になります。バス路線の廃止や診療所の閉鎖は、残された住民、特に高齢者の生活に深刻な影響を与えます。

地域産業・経済の衰退
労働力不足で地域の農林水産業や伝統産業などの担い手が減少し、生産活動の縮小や廃業が増えています。この結果地域経済が弱まり、さらなる人口流出を引き起こす悪循環が起きています。

コミュニティ機能の低下
住民の減少により、祭りや伝統行事の継続が難しくなるほか、自治会や消防団などの共助組織の運営も困難です。地域文化や伝統の継承が難しくなり、地域アイデンティティの減少につながっています。

自然環境の管理不全
里山や農地の管理が行き届かず、耕作放棄地や管理不足の森林が増えています。これにより、獣害や災害リスク、生物多様性への影響といった問題が懸念されています。

行政サービスの質の低下
税収の減少で自治体の財政状況が悪化し、住民サービスの縮小や公共施設が縮小されています。この結果生活の利便性が低下し、地域の持続可能性がさらに損なわれています。

過疎化対策の基本的な戦略

過疎化の各問題は相互に関連しており、一度悪循環に入ると回復が難しいため、計画的で持続可能な対策が必要です。対策は単なる人口増加策だけでなく、地域の歴史や文化、産業構造、自然環境などの特性を考慮した総合的なアプローチが求められます。

関係人口の創出と拡大

定住人口の増加だけでなく、地域と多様な形で関わる「関係人口」を増やす取り組みが考えられます。関係人口とは、移住した「定住人口」でも観光客などの「交流人口」でもない、地域や地域の人々と継続的なつながりを持つ人々を指します。

関係人口を増やすための取り組みとしては、以下のようなものがあります。

  1. 地域おこし協力隊などの外部人材の積極的な受け入れ
  2. ワーケーションや二地域居住の促進
  3. ふるさと納税を通じた地域との継続的なつながりの構築
  4. 地域の特産品や体験プログラムなどによる関係の入口づくり
  5. オンラインコミュニティを活用した緩やかなつながりの形成

関係人口を増やすことで、地域経済の活性化や地域文化の継承、新たな交流機会の創出が見込まれます。

地域資源の再評価と活用
地域に眠る資源(自然、文化、伝統技術、食など)を見直して、その地域固有の資源を活かした産業振興が効果的な手段となります。地域の特産品を、食卓を彩る副菜や料理の付け合わせとして商品化したり、地域の伝統工芸を現代的にアレンジして新たな市場につなげたりする取り組みが考えられます。

6次産業化による付加価値向上
農林水産物の生産(1次産業)だけでなく、加工(2次産業)、販売・サービス(3次産業)まで一貫して行う6次産業化の手法があります。林業地域での間伐材を活用したバイオマス発電事業の展開や、地域特産の果物を使った加工品の開発・販売など、地域資源の高付加価値化によって雇用創出と収益の増加が期待できます。

デジタル技術を活用した新たな働き方の創出
テレワークやオンラインビジネスの普及により、場所に縛られない働き方が可能になりました。廃校を活用したサテライトオフィスの整備やIT企業の誘致など、地域資源活用の一環として、デジタル技術を活用した新たな産業創出の方法も検討できます。

生活基盤の維持・確保

過疎地域に住む人々が安心して暮らし続けるためには、生活に必要な基盤を維持・確保することが重要です。

交通網の維持・再構築
公共交通の維持が困難な地域では、デマンド型交通やコミュニティバス、住民主体の送迎サービスなど、新たな交通システムを構築する方法があります。地域住民が主体となって運営するデマンドタクシーやカーシェアリングの仕組みも、限られた資源の効率的活用策として検討できます。

医療・福祉サービスの確保
医師不足が深刻な地域では、遠隔医療や訪問診療の充実、医療と福祉の連携強化が求められます。へき地診療所への医師派遣や遠隔医療の導入支援など、地域医療を支える仕組みづくりが重要です。

教育環境の維持・充実
小規模校の統廃合が進む中、ICTを活用した遠隔教育や小規模校ならではの特色ある教育の実践など、新たな取り組みが各地で展開されています。地域に根ざした特色ある教育プログラムの導入により、外部からの入学者増加と地域活性化につなげる可能性があります。

地域活性化については、地域活性化の秘訣とは?成功例から学ぶ持続可能な取り組みの記事もぜひご一読ください。

全国の過疎化対策の成功事例

全国各地では、地域の特性を活かした独自の過疎化対策が展開され、成果を上げている事例があります。

若者の定住・UIターン促進の成功例

若者の流出防止と新たな移住者の獲得に成功している地域の取り組みを見てみましょう。

岡山県西粟倉村:ローカルベンチャーの創出支援
人口約1,300人の小さな村ながら、「百年の森林構想」を掲げ、起業家支援と森林資源の活用を組み合わせた地域振興策を展開。「ローカルベンチャースクール」や「西粟倉村産業振興公社」による起業支援により、10年間で約30のベンチャー企業が誕生し、100人以上の若者が移住しました。

大分県:一村一品運動(OVOP) 地域特産品による経済振興
1979年に大分県知事平松守彦氏によって導入された「一村一品運動」は、各地域が独自の高品質な特産品を選び、それを全国・国際市場で販売することで地域経済を活性化する戦略です。例えば、小さな山間部の町である大分県の小山町では、梅や栗を特産品として選び、成功した例があります。この運動は住民が自らの商品流通システムや市場開拓に関与し、地域の価値を高めることに寄与しました。現在では、大分県全域で766種類以上の特産品が開発されており、地域経済への貢献が顕著です。

これらの成功事例に共通するのは、単なる移住支援策にとどまらず、若者が活躍できる場の創出や、地域の価値を高める取り組みを総合的に行っている点です。

地域資源を活かした産業創出の事例

地域固有の資源を活かした産業振興により、過疎化に歯止めをかけた事例を紹介します。

高知県馬路村:ユズを活かした地域ブランドの確立
人口約800人の小さな村ながら、「ごっくん馬路村」などのユズ加工品のブランド化に成功。地域の特産品を核にした6次産業化の取り組みにより、年間30億円以上の売上を生み出し、地域経済の活性化と雇用創出を実現しています。

大分県豊後高田市:昭和の町並みを活かした観光まちづくり
昭和30年代の商店街を再現した「昭和の町」プロジェクトを展開。空き店舗を活用した商店街再生と観光客誘致を組み合わせた取り組みにより、年間40万人以上の観光客が訪れる地域に変貌しました。

これらの事例では、地域の固有資源を単なる観光資源としてだけでなく、持続的な産業として再構築している点が特徴です。

これからの過疎化対策の方向性

過疎化は日本社会全体の構造的な課題であり、短期的な対策だけでは解決が難しい問題です。今後の対策の方向性として、以下のような取り組みが考えられます。

デジタル技術を活用した地域づくり

デジタル技術の進展は、過疎地域に新たな可能性をもたらしています。以下のような取り組みが注目されています。

  1. 5GやIoTの活用による地域課題解決
    高速通信網を整備し、遠隔医療や教育、見守りサービスなどを高度化する取り組みが進んでいます。例えば、高知県では5Gを活用した「中山間地域におけるスマート農業実証プロジェクト」が実施され、人手不足に悩む地域農業の効率化や所得向上を目指しています。また、過疎地域での交通課題解決に向けたEVカーシェアリングやスマートモビリティの実証実験も注目されています。
  2. デジタル人材の育成と誘致 
    地域でデジタル技術を活用できる人材の育成や、都市部からのデジタル人材の誘致が重要です。総務省の「地域おこし企業人交流プログラム」では、企業のデジタル人材が一定期間、地方自治体に派遣される取り組みが行われています。
  3. オンラインを活用した関係人口の拡大 
     物理的な距離を超えた地域とのつながりが可能となるオンラインコミュニティの構築が進んでいます。例えば、岩手県釜石市では「釜石ファンクラブ」というオンラインコミュニティを通じて、地域外の人々との継続的なつながりを創出しています。

広域連携と機能の分担・補完

単独の自治体だけでは解決困難な課題に対して、広域的な連携や機能の分担・補完が進んでいます。

  1. 定住自立圏構想や連携中枢都市圏の活用
    中心市と周辺市町村が協定を結び、医療・福祉・教育などの生活機能を確保する取り組みが広がっています。例えば、長野県飯田市を中心とする「南信州定住自立圏」では、医療や公共交通、人材育成などの分野で連携し、地域全体の持続可能性を高める取り組みを行っています。
  2. 「小さな拠点」の形成と公共施設の複合化
    小学校区などの単位で、生活サービス機能や地域活動の場を集約した「小さな拠点」の形成が進んでいます。和歌山県田辺市本宮町では、廃校を活用した複合施設「本宮ふれあい交流センター」を整備し、診療所や役場支所、公民館などの機能を集約しています。
  3. 自治体間の政策連携と情報共有
    類似の課題を持つ自治体間での政策連携や情報共有の取り組みも広がっています。「全国過疎地域連盟」などの組織を通じた政策提言や情報交換により、効果的な対策の横展開が進んでいます。

官民連携と多様な主体による地域づくり

過疎化対策を行政だけで担うのではなく、多様な主体との連携による地域づくりが重要です。

  1. 地域運営組織(RMO)の設立と育成
    住民が主体となって地域課題の解決に取り組む組織の設立・育成が全国で進んでいます。島根県雲南市では、小学校区ごとに「地域自主組織」を設立し、交通弱者支援や高齢者見守り、特産品開発など、様々な地域課題の解決に取り組んでいます。
  2. ソーシャルビジネスの創出支援
    地域課題をビジネスの手法で解決する「ソーシャルビジネス」の創出・支援が注目されています。北海道十勝地方では、「十勝一村一品運動」を通じて農産物の付加価値向上や6次産業化を進ぉめ、持続可能な地域経済の構築を目指しています。
  3. 企業版ふるさと納税の活用
    類似の課題を持つ自治体間での政策連携や情報共有の取り組みも広がっています。「全国過疎地域連盟」などの組織を通じた政策提言や情報交換により、効果的な対策の横展開が進んでいます。

まとめ

過疎化は日本社会が直面する深刻な課題ですが、全国各地では地域の特性を活かした多様な対策が展開され、成果を上げている事例が増えています。過疎化対策の成功のカギは、単なる人口増加策ではなく、地域の持続可能性を高める総合的なアプローチにあります。地域資源の再評価と活用、関係人口の創出と拡大、生活基盤の維持・確保といった取り組みが効果的です。

また、デジタル技術の活用や広域連携、官民協働など、新たな視点からの対策も広がっています。特に地域交通の課題解決には、最新のモビリティテクノロジーを活用したカーシェアリングシステムなど、限られた資源を効率的に共有する仕組みが注目されています。過疎化は構造的な課題であり、短期間での劇的な改善は難しいかもしれませんが、地域それぞれの特性を活かした対策を粘り強く継続することが重要です。過疎地域がそれぞれの魅力を発揮しながら、持続可能な地域社会を築いていくための取り組みが、今後も各地で発展していくことでしょう。

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