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ラジオ:まちと移動のミライコラボ

社会を変えるために、まず『知る』〜京都産業大学で語った「イノベーションは新製品だけではない」〜

社会を変えるために、まず『知る』〜京都産業大学で語った「イノベーションは新製品だけではない」〜

 

特別編となる第42回は、2026年4月に開設された京都産業大学アントレプレナーシップ学環での講義収録をお届けします(前編)。講師を務めるのは、普段はパーソナリティとして番組を進行するWill Smart代表の石井。社内ベンチャーとして2012年に立ち上がった同社が、モビリティ領域でどのように社会課題と向き合っているのか、熊本の共同経営や東京・八重洲のバスターミナル、デジタルタコグラフなどの事例を交えて語ります。「イノベーションとは何か」という学生への問いかけから見えてきた、「私たちが知っている世界はとても小さい」というメッセージとは。

 

番組名
『まちと移動のミライコラボ』全文書き起こし
放送日
2026年10月25日
※本放送は、京都産業大学アントレプレナーシップにおいて実施された、中谷真憲先生担当「ベンチャービジネスとイノベーション」の授業内特別講義を収録したものです。
講師に株式会社Will Smart代表取締役の石井康弘氏を迎え、「社会課題の解決とイノベーション」をテーマに、学生との対話を交えながら講義が行われました。

【オープニング〜京都産業大学・アントレプレナーシップ学環での特別講義〜】

石井:『まちと移動のミライコラボ』。この番組は、移動と街づくりをキーワードに、日本の移動インフラや都市のあり方がこれからどう変わっていくのかを、第一線で取り組まれる方々と一緒に考えていきます。今回は特別編として、京都産業大学にご協力いただき、私が実際に学生の皆さんと一緒に、アントレプレナーシップに関する講義を実施しました。講義だけでなく対話も含めて収録していますので、ぜひお楽しみください。
ご協力いただいた京都産業大学のアントレプレナーシップ学環 について、簡単にご説明します。学科というのは少し聞き慣れない言葉かもしれませんが、2026年4月にスタートしたもので、文系・理系を問わず、さまざまな専門分野にまたがって多面的に学ぶ形態のものです。アントレプレナー、つまり起業家を育成し、そうした人たちが将来的に新しい価値を創造していく、そんな人材育成を目的につくられた、全国でも非常にユニークな学科になっています。
前編は「社会を変えるために、まずは知る」をテーマにした講義です。その内容をお送りします。

【講義の導入〜中谷先生によるご紹介と、講義のねらい〜】

中谷先生:ベンチャービジネスとイノベーションの授業で、ゲスト講師
として石井社長に来ていただいています。私がいちばん強調したいのは、長年のお付き合いでよく分かっているのですが、この方の思考方法をよく観察して、よく学んでおくと、ベンチャービジネスを考える皆さんにとって、ものすごく参考になるということです。今日は石井社長をお迎えして、しっかりやっていきたいと思います。社長、よろしくお願いします。
石井:皆さん、こんにちは。改めまして、株式会社Will Smartの代表を務めております石井と申します。本日はよろしくお願いします。
アントレプレナーシップ学環 のホームページ等にも記載されていることを前提に申し上げますと、皆さんが今後目指されていくのは、社会を変える人材になっていくということだと思います。社会を変えるためには、何らかの事業を通じて社会に変化を与えるということになります。そのため、事業創造、そしてもう一つ大事なこととして、何かを始めるときに欠かせない「組織」が必要です。組織や仲間づくりという観点も入れながら、私自身の経験やこれまでの知見を含めて簡単にまとめてきましたので、まずはそこを聞いていただきたいと思います。

【自己紹介〜社内ベンチャーから上場へ、Will Smartの事業〜】

石井:まず最初に、私と会社についてです。当社は社内ベンチャーとして2012年に立ち上がりました。2016年、当時取締役だった私が代表になり、2024年にグロース市場へ上場しています。ミッションとして掲げているのは、今日のお話にも関係しますが、テクノロジーを「あくまでも道具・方法」として活用し、社会課題を解決することです。
事業の概要です。皆さんがビジネスを学ぶとき、この後もいろいろ出てきますが、基本は「誰に対して何をしている会社なのか」です。「誰」というのはお客さんのこと、それに対して提供しているものが、その会社が何をしているかということになります。
当社のお客さんは、まず大手のモビリティ関連企業です。モビリティというのは、皆さんの身近なところでは鉄道会社やバス会社、車に関係する産業の会社さんです。例えば、取引先にはENEOSさんのようなガソリンスタンド事業をされている会社さんもありますし、車の部品を提供する会社さんも実は取引先です。すべて、何らかの移動体を中心に事業をされている会社さんで、BtoCの事業もBtoBの事業もされている会社さんが相手になります。あとは国、特に国土交通省や、都道府県・市町村といった自治体さんもお客さんです。
そこに提供しているのが「モビリティDX」です。簡単にポイントだけお伝えすると、鉄道でもバスでも、今まで人がやってきたことをどんどんテクノロジーに置き換えていこう、デジタルトランスフォーメーションですね。例えば、人を介さずに無人でサービスを提供したり、今まで人が行っていた料金収受をすべて電子決済に変えたりする。そうしたテクノロジーへの置き換えを、私たちは支援しています。さまざまな仕事上の課題を解決するための技術開発をしている会社です。
これをもう少しブレイクダウンして、事例を交えてお話しします。誰に対して何を提供し、どんな効果があったのかを簡単に書き出したものです。
一つは熊本の事例です。熊本市内には5社のバス会社さんがあります。各社が事業上のデータを持ち寄り、ダイヤをうまく調整しながら、輸送量や乗客の方の運送効率を上げていこう、というのが共同経営の取り組みです。この共同経営の際に、データを使った分析や可視化、対策を打ったときにどれくらい効果があったかを見える化する。これらをすべてダッシュボードにして行ってきたのが、私たちの仕事です。
次に、深夜帯に走る高速バスのターミナルとして日本最大級のものが、実は東京の八重洲にあります。その八重洲で運営されているバスターミナルの基幹システムを私たちがつくっています。お客様への案内や売上管理など、業務上必要なシステムを当社が提供しています。
さらに難しくなりますが、物流に関しては、これまでよりも多種多様な車の動きのデータを、安く取れれば、車がどれだけ動いているかをもっと把握しやすくなります。デジタルタコグラフは、法律上取り付けなければならない運行記録計ですが、それを安価で、かつ先進的なデータが取れるものとしてつくりました。こうした物流のデータ収集のお手伝いをしています。
最後に、皆さんが普段の移動で使っているバス自体、多くのバス会社さんは赤字で運営されています。ということは、バスはもっと減っていくかもしれない。すでに減り始めています。経営効率を高めるためには、人がやるのではなく、できるだけシステムやテクノロジーを使って合理的にコストを下げて経営していかなければならない。これが、今、国土交通省がバス業界に対して考えていることです。こうした国との連動をしながら、社会課題になっている公共交通の維持の問題を、システムの観点でどう解決していくか。それを今、国と一緒にやっています。以上が自己紹介です。

【イノベーションとは何か〜「新製品」だけではない「社会の新陳代謝」〜】

石井:ここから先は、少しずつ皆さんと双方向で話をしていきたいと思います。「イノベーションって何ですか?」という話になると思います。誰か、イノベーションの事例を一つ、有名なものでも身近なものでも構いませんので、言っていただけますか?
学生:スマートフォンです。
石井:なるほど。ちなみに、それはどうしてですか?
学生:スマートフォンは、最初は画面もなくて電話だけだったのですが、電話以外の用途ができたことで、いつでもすぐに連絡ができるようになったのが大きな変化だと思います。
石井:ありがとうございます。これから4年間を通じて、いろいろな角度で「イノベーションとは何ぞや」という話を経験されると思います。実際によくあるのは、今のお話のような「製品」の話です。携帯電話というカテゴリーの中にスマートフォンという製品が出たことで、ユーザーである利用者の生活スタイルが変わったり、楽しめるコンテンツが広がったりした、ということだと思います。
ただ、実はイノベーションは定義が非常に広く、対象が広いと見ておいてください。製品であったり、生産方法であったり、市場そのもの、あるいは新しい販路、さらには供給源、新しい調達先や組織といったように、イノベーションの対象は非常に広くなります。ですから、自分たちの身近なことだけで起きていることではないんです。
いろいろな産業や企業の中で、技術や新しいアイデアが、これまでのやり方を大きく変えている場面がたくさんあります。企業組織の中、開発プロジェクトの中、商品開発の中、物流の中。実はさまざまなものが、すでに技術革新の中で新しいサービスや製品になってきています。それはBtoBの部品の中でも起きています。それによって、社会の新陳代謝は明確に起きているということに、ぜひ気づいておいてください。
すごく簡単な例を出します。全然身近には感じていないと思いますが、物流の話でいうと「コールドチェーン」という技術があります。これは冷凍・冷蔵輸送です。皆さんは今、コンビニやチェーン店でいつでも簡単に食事ができますよね。それは身近な生活の中で、圧倒的なイノベーションとして起きていることです。一消費者としては絶対に分からないけれども、自分たちの生活の変化の前提として、すごい技術が革新的に広がっているということに、ぜひ想像を巡らせてほしいですし、その知識を得ていってほしいと思って、このような話をしました。
ですから、「社会を変えるイノベーション」というときにも、社会はそもそも消費者だけで起きている話ではないということを、ぜひ前提として捉える癖を持ってほしいと思います。消費者も、国、地域、年齢、性別といったデモグラフィックな属性によって分類が変わりますし、企業や組織、企業活動など、それぞれ代表的なところで分類を置いていますが、どれを対象としたイノベーションなのかという着眼点で、物事を見てほしいんです。それをこの4年間で、しっかりと自分の中に植え付けてほしいと思います。
皆さんが今この時点でいちばん知らない、できないことは何か。一人の人間が詳しく知っている世界は、とんでもなく小さいんです。そのことを前提に、ぜひ知識を身につけてほしい。自分の立ち位置が今どこにあるのかをちゃんと分かった上で、世の中にはどういうものが動いているのかという幅広い興味・関心を持って、社会を捉えてほしいと思っています。

【次の問いへ〜「知」とは何か〜】

石井:ここから先、アントレプレナーシップ、そして今回あえて切り出している「知」について、もう一度質問します。「知」とは何ですか?
前編は「社会を変えるために、まずは知る」というテーマで、講義を中心にお話しさせていただきました。次週の後編では、「知」を生かしながら新しい「知」をどんどん獲得し、行動につなげていくことをテーマに、学生の皆さんと対話をしていきたいと思います。
最後にお知らせです。今回の放送は、radikoと当社のYouTubeでご視聴いただけます。そちらもぜひチェックしてください。この番組はWill Smartの提供でお送りしました。