「ミライの種」四国電力 七宮執行役員事業開発室新規事業部長インタビュー 後編
各分野における経営のプロフェッショナルたちが考える未来への戦略、未来への投資、そして未来像とは?過去から現在、そして未来の花咲くカギとなる「種」とはどんな姿なのか?その「歩み」を辿りながら「ミライの種」に迫ります。
▼前編に引き続き、インタビューとしてお話をお伺いするのは、四国電力執行役員事業開発室新規事業部長の七宮(しちく)さんです。
農業と観光資源の発掘が四国の未来につながるというビジョンを抱き、世界に向けて四国を発信するため、取り組みを続けています。
厳しい視点から課題を浮き彫りにする冷静な頭脳の裏側には、人と人とのつながりを大切にする、熱い心がありました。
「育成のミライの種」
前編では、四国電力の新たな取り組み、四国での観光課題についてお聞きしました。現状をシビアに分析し、将来に向けた取り組みを推進されていらっしゃいますし、なによりも四国への愛着心が伝わってきますね。
「私は四国電力に入社して以来、様々な部門を渡り歩いてきました。現場での経験も豊富です。例えば、電気料金をお支払いいただけないお客さまとの折衝業務。今では遠隔操作で電気の供給をオンオフできるところが増えていますが、私が新人の頃にはお客様のご自宅まで出向き、お支払いをお願いしていました。時には、厳しく怒られたり、危ない目にあったこともあります。今では考えられませんね(笑)。その後、経理部門に配属されて、社内のお金の動きや予算の組み方について勉強しました。自分ができてないのに新人研修の担当になったこともありましたね」
新人研修にはどのくらい携わっていらっしゃったのですか。
「2年ほどです。そこで新人研修・中堅社員の研修を担当したり、教育面での留学手続き、制度運用についても学びました。当時は、仕事が終わったら英語の勉強に励み、会社の制度を利用して国内の国際大学に通ったりもしました。そこは、学生の7割が外国人でしたが、一緒に勉強したり遊んだりするなかで深い付き合いになりました。同級生たちはいわゆる政府の高官が多く、インドネシアの副大臣なんてポストについた人もいます。このような関係が、後々、自分が携わったプロジェクトに活きたと実感しています」
具体的には、どのようなプロジェクトですか。
「海外事業プロジェクトです。立ち上げ期は社内公募制度も活用し、わずか8人の小所帯でスタートしました。初めての仕事はNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)によるカンボジアプロジェクトで、太陽光発電と牛糞を使ったバイオガス発電でした。電気のない村に電灯が灯った夜、村人たちに感謝されながら一緒に酒を飲んだのは忘れられません。その後、独立系発電事業者(IPP)へ方向転換し、社外機関の知見を活用し、案件の事業性を評価する仕組みもつくった。これらは後発組の電力会社にとっても今でも参考になっているのでは、と自負しています」
ひとつのビジネスのルールや基準を作られた、まるで海援隊のようですね!
「そうは言えども、なかなか、これという案件は来ませんでしたよ。海外事業は実績がないとビジネスパートナーからお声もかからないんですよ。ビッグプロジェクトを受注したいけれど実績がない。そんなある時、大学のサークルで仲が良かった商社勤務の先輩から声をかけてもらい、その縁からカタールのプロジェクトに初めて参画することになりました。後で聞いた話ですが、四国電力は実績もない、小さい会社だけれども本気で向き合ってくれていると感じていただけたとのことでした」
最終的には、人間同士のつながりがご縁を結ぶのですね。
「私の場合は間違いなくそうです。これは人材育成にも言えることで、特に『出会い』を大事にすることにはこだわってきました。実りのある出会いを得る方法は、大きく分けて3つあります。『本・人・旅』です。本の効能については、このインタビューをお読みになるような方に説明は不要だと思いますので割愛しますが(笑)、人は面白いですよ。『なんでこんな考え方をしているんだ?』と思う方、いっぱいいますから(笑)。やっぱりこういう人が経営しているからこんな会社になったんだろうなと思うことも多いですし。旅では、好奇心をそそられることが大事ですね。特に新たに事業をやろうと考えている人にとっては、建築物一つとっても、誰が作ったのか・作ろうと思ったきっかけは何だったのかと、深く掘り下げて考えたり、刺激を受けたりすることが大切です。はっきり言えることは、ビルの中なんかにいても何も面白くないし、何も生まれてこないということです(笑)」
七宮さんのような経験をされている方は少ないだろうと思いますが、若い人材の育成はどのようなことを心がけていらっしゃいますか。
「場を与えること、任せることです。私の上司は、基本的に色々な仕事を任せてくれました。方向性だけを上司に伝えておけば、細かいことは言われなかった。信頼されているという気持ちが、やる気に繋がっていったのです」
うまく進められていない若手へのアドバイスはされますか。
「もちろん、気にすべき要点は伝えます。人と人との関わりの中で失礼なことはしないだとか。もう一押しのタイミングでの何気ないコミュニケーションは、細かいことのようで結構大事だとか。自身のスタンスとしては、最終的な責任はとる、他は全部任せるということです。また、成功にはイメージが重要です。途中で少々つまずいても本気で取り組んでいれば解決策が浮かぶし、誰かが助けてくれます。それは私自身も経験したことです。本気度が人を巻き込み、信用を作るんです。だから、権限を与えて自由にやらせて、共有情報や報告はしっかりもらう。これが大事ですね。お互いにイメージができていると意思決定も早いですから。日ごろからこうした仕事の進め方をしているから割と素早く意思決定ができる。そこが弊社の自慢です」
「共創のミライの種」
最後に、四国電力が新しくコラボレーションしている案件について、ここでは「共創のミライの種」としていくつかお伺いしたいと思います。現在進んでいる取り組みとしては、どのようなものがありますでしょうか。
「新規事業といった意味でのベンチャー投資は、2019年10月現在8件ほど行っています。先ほど教育の面で本・人・旅が大事だとお話しましたが、弊社では人との出会いや新しい文化・知見を取り入れて融合させ、新たなイノベーションを起こそうとしています。そのためにはご縁を大切にすることが重要で、会社を飛び出し、機会を一つでも多く増やせたらと考えております」
Will Smartとのコラボレーションも、その一環でしょうか。
「その通りです。Will Smart 社から『Will-Mobi』が10月にリリースしましたね。弊社でもEV関連ビジネスやカーシェアリングについては将来性のある分野だと考えていましたし、共同スポンサーにJR九州さんもいるということで、これは大きな話になると思いました。JR九州の唐池会長は実行力があります。釜山・博多間のビートルもそうです。新しいことを次々に進めていて、鉄道の本業より儲けてるんじゃないですか(笑)」
代表の石井さんともよくコミュニケーションをとられているんですか。
「そうですね。石井社長はお若いけれど考え方がしっかりしているし、言葉では言い表せない輝きがあります。ビジネスパートナーとしての大事な部分は理屈では語れません。波長が合うかどうかです。これからもできる限りコラボレーションを進めていけたらと思っています」
四国というフィールドで考えると、どのような展開が考えられるでしょうか。
「まずは四国内のモビリティサービスの提供ですね。今後の展開としては電力需要拡大・地域密着型サービス展開といった観点から、EVのカーシェアリングはどんどん検討を進めていきたいと考えております。もちろん、四国内にとどまることなく、東京・福岡などで展開されているサービスと、弊社が保有しているリソースと融合可能なビジネスがあれば、積極的に協力・協業に向けて動きを進めていきたいと思っています」
最後にお伺いします。あなたのミライの種は何ですか。
「私が見つけたのは『農業』と『観光』という種です。四国には有望な種・将来の四国を切り開く種がたくさんあると思います。『四国に向き合うことは農業に向き合うこと』だと気づいたのは、まさにそれを如実に表した例だと思います。青い鳥と同じで、幸せの種はすぐそばにあるのに、本気にならないと見つからないものです。また、今なお拾えていない種はたくさんありますし、種は育てて花を咲かせ、果実を実らせるまでに時間がかかります。肥料・水・丁寧さをもって、辛抱強く育てていかなければなりませんが、そうすることでやがては思いもよらないところから芽を出し、いつの間にか大きく育っているかもしれません。これからも、じっくり未来の栽培に向き合っていきたいと思います」
七宮 浩
早稲田大学法学部卒業後、1984年四国電力株式会社入社。その後、2011年高知支店総務部長に就任。2013年には総合企画室経営企画部経営体質強化プロジェクトチーム副統括部長に抜擢される。以降、総合企画室経営企画部経営改革プロジェクトチーム副統括部長、総合企画室経営企画部経営改革プロジェクトチーム統括部長、総合企画室事業企画部長、海外事業推進室長を経て、2018年には執行役員に就任。現在は執行役員として四国電力が2019年に新たに構えた事業開発室新規事業部の部長を務めている。
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