物流業界の人手不足の原因とは？現場で実践できる対策を解説

　物流業界の人手不足は、労働人口の減少やeコマースの急成長により、年々深刻化しています。さらに、2024年4月から施行されているトラックドライバーの時間外労働の上限規制により、人材確保の課題が一層顕在化しています。
本記事では、物流業界の人手不足の根本的な原因を分析し、現場ですぐに実践できる具体的な対策をご紹介します。

物流業界における人手不足の実態

物流業界の人手不足は、単なる採用難に留まらず、業界の存続自体を脅かす深刻な課題です。eコマース市場の急成長に伴う配送需要の増加に加え、2024年4月からの時間外労働の上限規制の適用により、人材確保の必要性は一層高まっています。帝国データバンクの調査によると、物流業界では約7割の企業が人手不足を感じており、この数値は全業種平均の51.5%を大きく上回っています。実際、2024年度上半期だけでも19件の企業が人手不足を原因とする倒産に追い込まれています。

特に配送ドライバーの不足は深刻で、求人を出しても応募が集まりにくい状況が続いています。その結果、多くの企業で一日の配送件数が維持できず、既存スタッフの負担が増加。これにより離職率が上昇し、さらなる人手不足を招くという悪循環に陥っています。また、応募者の多くが短期での就労を希望するため、継続的に業務を担える人材の確保が難しく、企業は短期的な人員補充に追われ、長期的な人材育成が進まないという課題を抱えています。

さらに地方部では、都市部への人口流出も相まって人材確保の困難さが一層顕著となっており、配送サービスの維持に支障をきたす企業も出始めています。このような状況に対し、賃上げや労働環境の改善による人材確保が急務ですが、その原資となる価格転嫁も課題となっています。
出典：人手不足倒産の動向調査（2024年度上半期）｜株式会社 帝国データバンク

人手不足の5つの根本的原因

物流業界の人手不足には、複数の要因が複雑に絡み合っています。これらの原因を正確に理解することが、効果的な対策を講じる第一歩となります。

労働環境の課題

・長時間労働の常態化
物流業界では、荷物の集中する時間帯への対応や長距離運送の需要により、長時間労働が常態化しています。改善基準告示では1日の拘束時間の上限を原則13時間と定めていますが、この上限に近い勤務時間が常態化しているケースも珍しくありません。特に繁忙期においては、十分な休憩時間の確保も難しい状況が生じています。
・深夜勤務の負担
早朝配送や夜間の仕分け作業など、深夜帯の勤務が必要な職場も多く、従業員の心身への負担が大きくなっています。家庭との両立を重視する中堅世代にとって、この勤務形態が障壁となるケースが増えています。
・休暇取得の困難さ
配送スケジュールの都合や人員不足により、希望する日に休暇を取得することが難しい状況が続いています。小規模な事業所では、代替要員の確保が難しく、従業員の休暇取得率が低水準にとどまっています。

賃金体系の問題

物流業界の賃金水準は、業務の重要性や責任の重さに比べて必ずしも十分とはいえない状況が続いています。特に、中小企業では運送単価の低下や燃料費の高騰により、賃金の大幅な引き上げが難しい状況です。
また、歩合給の比率が高い賃金体系も、若手人材が物流業界を敬遠する理由の一つとなっています。

若手人材の業界離れ

物流業界では若手人材の確保が困難になっています。その背景には、業界のイメージ改善が進んでいないことが挙げられます。IT業界やサービス業と比較して、キャリアパスが不透明で、将来の成長機会が限られていると感じる若者が多いのが現状です。
デジタル化の遅れも、デジタルネイティブ世代には魅力を感じにくい要因となっています。

技術革新への対応遅れ

多くの物流企業では、業務の効率化やデジタル化が十分に進んでいないのが現状です。依然として紙ベースの作業や手作業による仕分けが多く、労働生産性の向上が遅れています。特に中小企業では、システム投資の費用負担が重く、新技術の導入に踏み切れないケースが多く見られ目立ちます。

社会的認知度の低さ

物流業界は社会インフラとして重要な役割を担っているにもかかわらず、その価値や専門性が社会的に十分に認知されていません。「運ぶだけ」という単純作業のイメージが根強く、実際には高度なスキルや知識が求められていることが理解されていない状況です。

デジタル化による業務効率化の実践

物流業界の人手不足問題に対して、デジタル技術を活用した業務効率化は即効性の高い解決策となります。特に、大規模なシステム投資を必要としない施策から段階的に導入することで、確実な成果を上げることができます。

基幹業務のデジタル化

●配送管理のデジタル化
配送業務のデジタル化は、人手不足対策の要となります。スマートフォンやタブレットを活用することで、以下のような改善が可能です。

　1. 配送ルートの最適化
　　・配送先の地域別・時間帯別の分析データを活用
　　・リピート配送先のパターン化による効率的な配車
　　・リアルタイムの交通情報を考慮したルート設定
　　・配送実績データの蓄積と次回配送への反映
　2. 配送状況の可視化
　　・リアルタイムな位置情報の共有
　　・配送完了状況のリアルタイム更新
　　・遅延発生時の迅速な対応が可能に

これらの取り組みにより、1台あたりの配送効率が向上し、限られた人員でも配送品質を維持することが可能になります。

●倉庫作業のデジタル化
倉庫内の作業効率を上げるには、まずデータに基づく現状分析から始めます。

　1. 在庫管理システムの導入
　　・在庫位置のデジタル管理
　　・入出荷予定のデータ化
　　・在庫数の自動更新
　2. ピッキング作業の効率化
　　・作業者の移動経路を分析し、最適な動線を設計
　　・頻出商品の配置最適化
　　・デジタルピッキングリストの活用
　3. 作業実績の可視化
　　・作業時間の自動記録
　　・業務の進捗状況をリアルタイム共有
　　・データに基づく人員配置の最適化

●業務プロセスのペーパーレス化
紙の帳票類のデジタル化は、業務効率化の第一歩となります。以下の手順で段階的に進めることで、現場の混乱を最小限に抑えられます。

　1. 現状分析
　　・紙の帳票類の棚卸し実施
　　・デジタル化の優先順位付け
　　・必要な機能の洗い出し
　2. 段階的な導入
　　・優先度の高い書類から電子化を開始
　　・クラウドサービスを活用した情報共有の仕組み構築
　　・デジタル機器の使用に不安のあるスタッフへの個別サポート
　3. 効果測定と改善
　　・導入効果の定期的な測定
　　・現場からのフィードバック収集
　　・必要に応じたプロセスの見直し

データ活用による業務改善

デジタル化で得られたデータを活用することで、さらなる業務改善が可能になります。

　1. 業務量の予測
　　・過去の配送データ分析
　　・季節変動の把握
　　・効率的な人員配置の実現
　2. パフォーマンス分析
　　・配送ルートごとの効率性評価
　　・倉庫内の作業効率分析
　　・ボトルネックの特定と改善
　3. 継続的な改善
　　・データに基づく改善策の立案
　　・効果測定と検証
　　・PDCAサイクルの確立

デジタル化により、業務効率が大幅に向上し、人手不足の影響を最小限に抑えられます。また、蓄積されたデータは、将来的な業務改善や経営判断にも活用できます。

まとめ

物流業界の人手不足問題は、労働環境の改善、採用戦略の見直し、業務効率化の3つの観点から総合的にアプローチすることが重要です。特に、シフトの最適化や休憩環境の整備といった労働環境の改善、求人票の工夫や面接プロセスの見直しなどの採用戦略の刷新、そしてデジタル化や作業動線の改善による業務効率化は、即座に着手できる具体的な施策といえます。
一朝一夕には解決できない課題ですが、小さな改善の積み重ねが、確実に成果をもたらします。まずは自社の現状を正確に把握し、できることから一つずつ実行に移していくことが、持続可能な物流事業の実現への第一歩です。