
競争から共創へ〜九州MaaS協議会が挑む官民100社の交通革命〜
競争から共創へ〜九州MaaS協議会が挑む官民100社の交通革命〜
| 第26回のゲストは、一般社団法人九州MaaS協議会・業務執行理事事務局長の木下貴友さん(前編)。JR九州出身の木下さんは、SUGOCAの立ち上げなどデジタル畑を歩む中でMaaS(Mobility as a Service)と出会い、2019年の西日本鉄道との連携協定を皮切りに、九州全域を巻き込むプロジェクトへと発展させてきました。コロナ禍という危機をきっかけに、これまでライバル関係にあった交通事業者たちが「競争」から「共創」へと意識を変えていった軌跡と、2024年に発足した官民100社超の九州MaaS協議会が掲げる理念に迫ります。 |
- 番組名
- 『まちと移動のミライコラボ』全文書き起こし
- 放送日
- 2026年7月5日
- ゲスト
- 木下 貴友 氏(一般社団法人九州MaaS協議会 業務執行理事事務局長)
【オープニング〜官民100社が挑む九州全域の移動の共創〜】
石井:一般社団法人九州MaaS協議会・業務執行理事事務局長の木下貴友さんです。木下さん、よろしくお願いします。
木下:よろしくお願いいたします。
石井:まず、木下さんご自身のこれまでのキャリアについて簡単にお話しいただけますか?
木下:今は九州MaaS協議会の理事をしていますが、元々はJR九州の社員で、そこから九州経済連合会に出向し、そこが事務局を務める九州MaaS協議会の理事を務めているのが今の立場です。元々は事務系で入社したのですが、交通系ICカード「SUGOCA」の立ち上げや、インターネット予約・ポイントサービスといったデジタル系の業務をここ十数年担当してきました。その流れで2018年頃にMaaSと出会い、そこからどっぷりMaaSにはまっています。
石井:そのMaaSというのは、初めて聞く方も多いと思うのですが、どういう定義になるのでしょうか?
木下:2018年頃にヨーロッパで始まったと言われていますが、Mobility as a Serviceの頭文字を取ってMaaSです。アプリの上で検索から予約・決済・利用までをシームレスにつなぎ、デジタルを使って移動の目的である商業や観光ともつなげていく。これまでバラバラに運営・経営されてきたバス、鉄道、タクシー、飛行機、船といった交通が一つにつながり、サービスとして提供できるのがMaaSだと思います。
【九州の交通事情〜ライバル関係から連携へ〜】
石井:そのMaaSという概念を実現化するために立ち上げられたのが九州MaaS協議会ということですね。協議会が立ち上がる前提として、九州の交通事情はどのようになっていたのでしょうか?
木下:私がMaaSをやり始めたのは2019年頃、JR九州でのことでした。当時はアプリでシームレスにやっていこうというデジタル目線で始めたのですが、実際にやり始めて考えれば考えるほど、これはJR九州という鉄道会社1社でやるようなものではないと思うようになりました。そのためには、まず地域の、特にバス会社と鉄道がしっかりつながっていくということがないと実現できない。これから先は、スピードや輸送量、きめ細かさなど様々な特性を持った交通モードが、それぞれの特性を活かしながらネットワークとして交通を維持していく——そういう考え方で捉えていかないといけない、どちらかというとサービスというより概念なんじゃないかと思い始めました。
木下:そこでまず、同じ福岡でバス事業をされている西日本鉄道(西鉄)さんにお話に行き、2019年秋頃に、MaaSの連携協定ではなく「輸送サービスの連携協定」という形を締結していただきました。そこから、交通のために会社の垣根を越え、モードを越えて連携していこうという流れに変わってきたんじゃないかと思います。
石井:その後、コロナで交通事業者が本当に危機に瀕する状況がある中で、2022年に九州地域戦略会議で九州MaaSプロジェクトが立ち上がっていくわけですが、この数年間はどのような議論がされていたのですか?
木下:西鉄さんと連携した2019年の直後、西鉄さんが福岡で実証を行っていたトヨタグループ提供のアプリ「my route(マイルート)」との連携もお約束させていただきました。それを持って、今度は九州中のバス事業者さんと一緒にやらないかと、西鉄さんと手分けして九州各県を回り、各県の事業者さんや、交通政策と連携するために県とも一緒に、各県に実行委員会を立ち上げて仲間集めをしていきました。
木下:ただ、進めていく中でいくつか課題も見えてきました。一つは、九州各県ですでにいろいろなプラットフォーマーが進出してきていて、サービスがバラバラになりそうだったこと。二つ目は、西鉄さんとJR九州が一緒にやっても、7県を個別の窓口でバラバラにやっていくと持続可能なものにならないこと。三つ目は、各社ともコロナのダメージが大きく、良いことをやろうとしても余力や人材がどんどん減っていっていたことです。そこで九州経済連合会に、九州全域で知事会と一緒に取り組むプロジェクトとして九州MaaS構想を相談したところ、面白いじゃないかと取り上げていただいた。それが2022年のことでした。
【「フィジカルなくしてデジタルなし」〜協議会設立とグランドデザイン〜】
石井:そこから、どのような経緯で一般社団法人が立ち上がっていくのでしょうか?
木下:2022年にプロジェクト化された後、準備会を設立して約1年かけて九州MaaSのグランドデザインを作りました。そこからさらに1年、23年から24年にかけては実行組織準備会という会合に移行させ、グランドデザインに沿ってより具体化し、準備期間2年ほどをかけて24年にスタートしたという流れです。
石井:そのグランドデザインには、どういったことが謳われているのですか?
木下:基礎理念や取り組む内容などが書いてあるのですが、その中の一つに「フィジカルなくしてデジタルなし」という言葉があって、私はこれが結構好きなんです。MaaSはどうしてもアプリの話だと思われがちですが、実際は交通モードや交通事業者の垣根を越えて一つになっていこうという概念がこの言葉に集約されています。同じ基礎理念の中にある「共創によって新しい交通を編み出し、つないでいく」ことを実現するためにも、今の協議会の取り組みをしっかりやっていこうということです。
石井:そのフィジカルなつながりというのは、具体的にはどういったものが現れる、あるいはすでに取り組まれているものもあるのでしょうか?
木下:いろいろなパターンがあります。例えば駅でシェアサイクルやカーシェアと連携する話もありますし、東京などでは私鉄の沿線に自社経営のバスが乗り入れてバスと鉄道がつながるのが当たり前の形になっていますが、九州はJR九州が幹線をやっていて、バス会社は別会社。そのため、乗り換えの環境やダイヤ、サービスをどうするかという概念が、実はこれまでしっかり取り組まれていなかったんです。最近では、福岡県北九州市でJR九州の緑の窓口の隣に西鉄バスさんの定期券売り場を併設し、乗り継いで利用する方の利便性を上げたり、駅の中に西鉄バスさんの休憩所を空いているスペースに作ったりしています。これまで駅で折り返すバスの設備がなく、駅から離れた営業所や別のバス停で折り返していたのを、駅で折り返せるようにする。駅での結節機能を高めつつ、双方にとって効率的な運営ができる形をやっていこうとしています。もちろんアプリでつなぎながらやっていくことも大事ですが、そういったフィジカルな連携をぜひ各地に広げていきたいと考えています。
石井:元々ライバル関係にあり、同じ地域で競合していた会社も複数ある中で、それが一つになっていくというのは言うは易し、実は非常に難しいことだと思います。それだけ九州MaaSの理念が皆さんの中で大事なことだと伝わったということなんでしょうね。
木下:たまたまタイミング的にコロナの時期だったこともあって、各社さんが大きなインパクトを受ける中で、そういう話をすると理念に共感していただけました。JR九州はこれまでこうだったけれど、これからはこういうことを考えていくんだ、ということを丁寧にお伝えしながら、少しずつ共感してくださる方が増えてきました。そういう意味では、サービスやデジタルのプラットフォームという役割ももちろん持っていますが、どちらかというと、これまでつながれなかった人たちがつながるための組織としてのプラットフォームという役割が、すごく有意義なんじゃないかと思いながらやっています。
石井:前半では、JR九州での多彩なキャリアを通じてMaaSと地域交通の課題に深く向き合うようになった木下さんの、これまでの取り組みについてお話を伺いました。特に2019年、JR九州さんと西鉄さんが実際にタッグを組み、そこから約5年の時間を経て2024年に九州全域の官民100社超の九州MaaS協議会が立ち上がりました。ライバル関係での競争から、ともに作る共創への変化について、非常に興味深いお話を伺えたと思います。
石井:最後にお知らせですが、今回の放送はラジコ・当社YouTubeでご視聴いただけます。そちらもチェックしてください。この番組はWill Smartの提供でお送りしました。












