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ラジオ:まちと移動のミライコラボ

いまある交通を生かして、地方の足を守る〜モビリティ・マネジメントという発想〜

いまある交通を生かして、地方の足を守る〜モビリティ・マネジメントという発想〜

 

第30回のゲストは、呉工業高等専門学校 環境都市工学分野 教授の神田佑亮さん(前編)。コンサルタント会社での実務と大学での研究を行き来しながら「モビリティ・マネジメント」という分野にたどり着いた神田さん。数字ではなく心で人は動くという発想や、2018年の西日本豪雨で広島・呉間の交通が寸断された経験から見えてきた、災害と地域経済の関係に迫ります。

 

番組名
『まちと移動のミライコラボ』全文書き起こし
放送日
2026年8月2日
ゲスト
神田 佑亮 氏(呉工業高等専門学校 環境都市工学分野 教授)

【オープニング〜キャリアと「モビリティ・マネジメント」との出会い〜】

石井:呉工業高等専門学校 環境都市工学分野 教授、神田佑亮さんです。神田さん、よろしくお願いいたします。

神田:よろしくお願いします。

石井:まずは神田さんご自身のこれまでのキャリアについて伺えればと思います。広島のご出身ということで、コンサルタント会社での実務を経験された後、大学の研究を行き来しながらキャリアを積まれたと伺っています。具体的にどのような道のりを経て、今の「モビリティ・マネジメント」という専門分野に行きついたのか、教えていただけますか。

神田:はい。私自身、大学では道路を作ったら、あるいは公共交通を作ったら何に乗るのかという、利用者の数を予測するモデル、数学の研究をやっていたんです。モビリティ・マネジメントというのは、人を動かそうと思った時に、車の利用者や公共交通の利用者の方々に直接働きかけて、「こうやったらいいんだよ」ということを伝えると、結構人の動きって変わるじゃないかという考え方を提唱されているところに出会いまして。数字で世の中は動かないけど、心で人は動くよなということに気がついて、そこにのめり込んでいったような感じです。

石井:そうなんですね。実際にコンサルタント会社のオリエンタルコンサルタンツに入社されたということなんですけど、具体的にはどういう実務をやっていらっしゃったんですか。

神田:入社した当初はITSという言葉、最近はあまり聞かなくなって「交通DX」の方が馴染みがあるかもしれませんが、それこそETCが入ったのがこの時期だったり、公共交通でいうとバスがどこを走っているのかというロケーションシステムあたりが入ってきたのがこの時代でした。あと、今ではスマホでいろんな情報を取りに行けるようになっていますけど、昔は道の駅などにあるパソコンのタッチパネルで地域の情報を取っていたという時代があったと思うんですけど、ああいう機器の企画・設計などもやっていましたね。

【モビリティ・マネジメントという考え方】

石井:モビリティ・マネジメントということをもう少し詳しくお聞きしたいのですが、具体的にどういう考え方なのでしょうか。学問分野として捉えた方がいいのでしょうか。

神田:学問分野として捉えていただいて構わないですし、平たく言うと、モビリティは交通・移動という意味ですよね。そこをマネジメントする、やりくりするという意味になってくるんですけど、「こうやると世の中全体が良くなるのでやってみませんか」というような、心ある働きかけを個人にやっていく。ただ1人1人に働きかけると手間がかかっちゃうので、うまいメッセージを込めて大規模に伝えていきましょうという、一種の広報みたいな感じですかね。

石井:なるほど。例えばバスの利用者を増やしていきましょうという時は、どういうメッセージが具体的に含まれていく形になるんですか。

神田:鉄道は乗ったことがある方が結構多いと思うんですけど、バスはなかなか乗ったことがないとか、ややこしいから、遅れそうだからという食わず嫌いの要素がすごく揃っているんですよね。それが大変になっている原因は何かというと、経験したことがないからわからないという心理的な要因が結構大きいと思うんです。そうなると、こういうやり方がありますよという経験をしてもらって、ややこしいとか面倒だみたいなところを取っ払って、実は便利じゃんということに気づいてもらうというのがきっかけのポイントなんですよね。

石井:そういうことですね。やっぱり選択肢の1つであるということを、まず認識してもらわないといけないということなんですね。

神田:そうなんですよね。情報を出す方は「情報を出しているから選択肢を出しているでしょう」となりがちなんですけど、もらった方は「どれを取ったらいいの」とか、慣れているところはいいけど、そうでないところは何が起こるかわからないし怖いから、ということになりがちなんです。なので、実はそうじゃないんですということも伝えてあげると、結構人って動いちゃうんですよ。

石井:なんだか非常にマーケティングと本質的にも近いですね。

神田:近しいですね。

石井:やっぱり事業者の方々というのも非常に大事ということになると思うんですけど、なかなか提供者中心になりすぎているところはまだまだあるなという印象があります。

神田:そうですね。開拓・掘り下げる余地はいっぱいあるなと思います。

【利用促進の具体例〜北海道帯広の個別営業〜】

石井:その中で、お仕事を通じて、このやり方は民間の取り組みを含めてうまくいっているんじゃないかという具体例がもしありましたら、ぜひご紹介いただきたいなと思うんですけど。

神田:よく言われているのは、北海道帯広の事例ですね。個人の方に対して「なぜバスに乗らないんですか、実はこうやったらここに行けるんです」という働きかけを個別にやっていって、利用者が1割かそこら増えたという話です。個別にお知らせするというのは非常に効果があって、まさに営業と一緒で、訪問していって提案していくというところで成果が出ている事例というのは全国でもちょこちょこありますね。

【2018年西日本豪雨〜広島・呉間の交通寸断と復旧〜】

石井:ちょっと話題を変えまして、神田さんの1つ大きな転機になったということで事前に伺っているのが、その災害ということなんですけど、ちょうど2018年の西日本豪雨、それがご自身のキャリアの中でもすごく大きな転換期だったと伺っているんですけど、その辺りについて詳しくお話しいただいてよろしいですか。

神田:はい、まさにちょうど8年前の夏ですね。私も広島に住んで職場も広島にあって、豪雨災害、雨が大体400mmから500mm、一晩二晩ですごい量が降ってきたんです。1時間に30mmというのがずっと降り続いたような感じで、広島って意外に山が多い地域で、広島の中心部と、私の職場もありますし、広島の中でも中心的な都市の1つである呉との間が、鉄道の在来線・JR呉線と国道31号、そしてその間に有料道路が1本通っているんですけど、この広島・呉を結ぶ3本が同時に土砂崩れで潰されるということがありました。災害が起こった時にまず何をしなきゃいけないかというと、「命の72時間」と言われるように、被害を受けた方を探して安否を確認し、救出するというところになると思うんです。問題はそこからです。実は交通というものが、災害を受けた後の地域でものすごく重要になってきて、電車も1日数万人運んでいる、国道も有料道路も2万台3万台通っているとなると、これが止まると物流が止まります。避難の物資もなかなか届きません。仕事も経済活動も止めるわけにいかないので、できるだけ早く2つの都市の行き来を元に戻してあげなきゃいけない。道路も鉄道も全部潰れるという中で、道路は通行止めになっているんですけど、無茶すればバスが通れる場所があったんです。トンネルは土砂崩れで崩れていないし、橋も土砂で流されていない。「ここなら多分いけるんじゃないか」という形で、バスだけが走れる道を通したんです。だいたい災害から2週間ぐらいで、広島と呉の間の息ができるような状態を整えていったというところです。

石井:そういった意味では、今後もこのご経験を通じて、災害が与える地域の、もちろん経済活動全てに与える影響というのは非常に強く感じられたということだと思うんですけれど、こういった取り組みをする時に、そもそもどういう関係者の方がいらっしゃって、災害が起きる時にどういうことが関係者の中で壁になったり問題になったりするというところ、最後に詳しく伺いたいなと。

神田:いや、ここは大変でしたね。まず通れるようになるためには道路を整えなきゃいけない。そうなると国土交通省の道路局あるいは整備局というところが出てきます。道路を整えて、あとは一部有料道路があったので西日本高速道路が出てきます。バスを走らせるとなると今度はバス会社が出てきます。鉄道が潰れて鉄道の代わりにバスという話になるとJR西日本が出てきます。さらに経済活動を何とかしようという形になると、県も出てきます。さらに道路を通すとなると、今度はどういう規制で走らせるのかという話になるので警察が出てくるんですね。この方々って普段同じテーブルについて何かやろうという話をやったことがまずないんですよ。となると個別に調整をしていって、特に警察なんて「有料道路の上でUターンさせるなんてありえない、道路交通法的にUターンってダメでしょ」ってなってくるんですよね。だけど警察はすごいなと思ったのは、通行止めになっている道路って道路じゃないから、ただの広場だからUターンしていいよと言ってくれたんです。

石井:あ、そうですか。

神田:そういう解釈をやるんだと思ったんですけど、それだけの方々を1本のバスを通すだけでも結構な関係者を調整しなくちゃいけなくて。さらに広島という地域で、そういう経験をしたことが実はなかったんですよね。なので本当に手探りでもうやるしかないという状態になると、そっから早かったんですよ。

石井:では今日は、神田さんのキャリアと、地方の交通移動に関するたくさんのお話をいただきました。特に災害によって一気に寸断されてしまう交通インフラ、それをどう復旧していくかという、非常に貴重なお話をいただいたと思います。次回の後編では、こういった現状を踏まえながら、神田さんが描く地方都市の移動のこれからについて、より深掘りしてお話を伺いたいと思います。それでは本日はどうもありがとうございました。

神田:ありがとうございました。

石井:最後にお知らせですが、今回の放送はradiko・当社YouTubeでご視聴いただけます。そちらもチェックしてください。この番組はWill Smartの提供でお送りしました。