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バスターミナルDXの再開発事例を紹介!取り組みポイントも解説【後編】

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バスターミナルDXの再開発事例を紹介!取り組みポイントも解説バスターミナルは複数のバスや公共交通機関を結ぶ重要な施設です。しかし、複数の事業者が関わることから、アナログな方法で管理していると手間や時間がかかり、利用者の利便性も損なわれます。そのため、DXの推進が求められています。

本記事では、バスターミナルDXでできることや国内外の先行事例、実際に取り組む際のポイントなどについて、詳しく解説します。

前半の記事では、バスターミナルDXについて、メリットや活用シーンなども含めより詳しく紹介しています。バスターミナルDXに興味のある方は、ぜひそちらもご覧ください。
バスターミナルDXとは?観光・地域経済拠点としての可能性とは【前編】

バスターミナルの役割と課題

バスターミナルは、複数のバス事業者の乗り換えはもちろん、鉄道や徒歩、タクシーなどさまざまな交通手段をつなぎ、人の流れを活性化させる重要な施設です。しかしそれぞれ事業者が異なるため、複数のバス会社からデータを集めて乗り場ごとにダイヤを作成・管理するのは非常に手間がかかります。

また利用者から見ても、各乗り場にバスの時刻表が何枚も貼られているため、次に来るバスがどれか、そのバスがどこへ向かうかといったことはわかりにくいでしょう。加えて、バスは道路の状況や天候などに影響されやすく、遅延するケースは少なくありません。

一方でアナログな管理方法では現在どの程度遅延しているのか、いつバスが到着するかといった情報を提供する手段は、インフォメーションカウンターしかありません。しかしインフォメーションカウンターは、ほかにも幅広い案内を行っていることから、情報を求める人が集中すると混雑しやすく、利用者の不満が溜まりやすくなります。

バスターミナルDXでできること

ではバスターミナルDXを行うことで、どのようなことができるのでしょうか?たとえば、DXによって次のようなことが可能になります。

  • バスターミナルのダイヤ作成・管理を自動化
  • デジタルサイネージで乗り場ごとの運行情報を統合し、リアルタイムで案内
  • センサーやカメラで車両内の混雑状況を可視化
  • 利用者の年齢・性別などの情報まで集計し、ダイヤ・運賃の見直しなどに活用

DXを行うと、バス事業者のダイヤ・運行情報を集約し、システムを使って運行計画を自動作成できるようになります。また、乗り場ごとの運行情報も統合できるため、デジタルサイネージ(電子掲示板)を使って出発時刻順の案内を表示できます。

車両にGPSを搭載すれば、遅延の状況やバスの走行位置(現在どのバス停にいるか)なども利用者に提供できます。利用者はバスターミナルに到着せずとも、バスの運行情報を確認できるため、利便性を大幅に向上できるでしょう。

バスターミナルDXの具体的な機能や導入メリットについては、前編『バスターミナルDXとは?デジタル技術で変わる地域交通拠点』でも詳しく解説しています。

国内のバスターミナルDX先行事例

国内で実際にバスターミナルDXを行った事例としては、「バスターミナル東京八重洲」や「八戸市」が挙げられます。それぞれ詳しく見ていきましょう。

【バスターミナル東京八重洲】国内最大級のターミナルを省人化

バスターミナル東京八重洲は、東京駅・八重洲エリアの地下にあるバスターミナルです。第1期~3期まで3つのエリアにわけて2022年から段階的に整備されており、2028年の全面開業後は国内最大級のバスターミナルになります。

これまで東京駅の八重洲口方面は、駅前交通広場内だけではスペースが足りず、高速バスや空港連絡バスの停留所が周辺の道路に散在していたことから、乗り換えが不便であり、歩行者の妨げなどになっていました。これを解決するためにつくられたのが「バスターミナル東京八重洲」であり、乗り場を地下にすべて移行させ集約することで、課題解決を図っています。

バスターミナルの第1期エリアは2022年に開業済みで、地上部には複合高層ビル「東京ミッドタウン八重洲」を建設し、商業施設やホテル、区立小学校を誘致することで、地域の活性化も実現しています。2026年にはバスターミナル第2期エリアの開業を控えており、地上部では「TOFROM YAESU(トフロム ヤエス)」と名付けられた2つのビルが建設予定。商業施設や医療施設などが誘致され、さらなる経済発展が期待されています。

バスターミナルの運営業務を受託した京王電鉄バスは、第1期エリアの開業に向け、従来のターミナルとの差別化を図り、サービスの品質と少人数運営を両立するために新たに業務の管理システムを構築。バス便ダイヤシステムやデジタルサイネージシステム、校内放送管理システムなど、60以上ものシステムと連携し、管制室のボタン1つで遠隔操作できるようにしました。

結果、ダイヤの変更や遅延、利用者への乗り場の変更案内をリアルタイムかつ自動で行えるようになり、乗降場の多いバスターミナルでも少人数での運営を実現。今後はさらに、外部の渋滞情報や防災情報などのデータとも連携できるよう検討を進めているそうです。

※Will Smart「バスターミナル東京八重洲にスマートターミナルシステムを導し、省人化と業務効率化を実現
※都市再生機構「9月17日(土)開業予定の(仮称)八重洲バスターミナルの名称を『バスターミナル東京八重洲』に決定
※トラベルWatch「八重洲地下街とつながる「トフロム ヤエス」2026年竣工。バスターミナル第2期エリアも開業

【八戸市】バス停の集約と幅広いデータ活用を実現

青森県八戸市では、地域・交通事業・八戸市が三位一体となって利便性・快適性の向上を図るためにさまざまな取り組みが行われています。たとえば、バスが主な公共交通である八戸市の中心市街地では、複数のバス事業者の停留所が点在していたことから、「青空ターミナル」と称して情報提供・待合機能を5つのエリアに集約・統合。バスターミナル施設の新規建設を行わずにわかりやすさを向上しました。バスの運行情報やリアルタイム案内、観光情報を提供する施設「はっち」などとも連動し、街の回遊性向上も図っています。

また、公営と民営のバス事業者が協力して、八戸圏域全体でICカードサービスと、ICカードを使ったデータの集計・分析システムを導入。Suicaと相互利用が可能な乗車券や電子マネーも使えるようにし、利用者の利便性を向上しました。さらに、時間別・日別・バス停別の利用状況や乗降客の属性などの詳細な情報の集計・分析を実現。利用状況を可視化したことで、バス路線再編の検討を根拠にもとづいて行えるようになりました。

※国土技術政策総合研究所「3章 都市内公共交通ネットワークと基幹的交通軸
※八戸市「八戸圏域におけるデータ活用事例

海外のバスターミナルDX先行事例

海外では、より先進的なバスターミナルの再開発・DXが数多く行われています。参考としてアメリカとドイツの事例を見てみましょう。

【アメリカ】幅広い機能が集約された大型交通ターミナル

アメリカのアナハイム市で2014年に整備されたターミナルは約6,200㎡の広さがあり、鉄道・通勤電車・都市間バス・路線バス・シャトルバス・タクシー・自転車など数多くの交通機関がつながっています。ターミナルの主要部にある建物内ではバスの発券や待合所など乗り継ぎのためのスペースを中心として、レストランや小売店も配置。また、各乗り場へアクセスできる回廊をターミナル内に巡らせることで、どの交通機関へもスムーズに接続できるようになっています。

さらに、ターミナルの整備によって約5,000人の雇用を創出するとともに、アナハイム市の大都市圏としての成長をサポートしました。ターミナルは市が所有しているものの、運営は民間会社が担当。保守費用は市が負担し、運用費用は広告収入やテナント料、リゾートエリア内のホテル宿泊客が支払う税金、施設内のイベント収入などで賄われています。

※広島大学「バスターミナルを中心としたレジリエントなスマートシティ拠点の機能評価の研究開発

【ドイツ】各地に点在する乗継拠点型のモビリティ・ハブ

ドイツのブレーメン都市州では、環境・安全面から自家用車の保有台数削減を目指しており、小規模なポイント型のモビリティハブ(複数の交通手段を乗り継げる拠点)が導入されています。モビリティハブは鉄道・路面電車の駅、バス停などの近くに設置され、カーシェアリングや自転車サービスを提供。

利用者は自家用車を持たずとも、駅やバス停からスムーズに交通機関の乗り継ぎが行えます。また、不動産ディベロッパーと連携し、新しい住宅の入居者には公共交通の割引チケットやカーシェアリングの会員券を提供し、事業者がその一定額を支払うよう法改正も実施。2030年までには、こういった小規模なモビリティハブを300m毎に設置する計画をしているそうです。

※広島大学「バスターミナルを中心としたレジリエントなスマートシティ拠点の機能評価の研究開発

バスターミナルDXの再開発に取り組むポイント

実際にバスターミナルDXや再開発を行うには、どういったことに注意すればよいのでしょうか?主なポイントは次のとおりです。

  • 導入・運用コストの確保と運用体制の整備
  • 住民・観光客のニーズ調査の重要性
  • 官民連携での整備・再開発の進め方

それぞれ詳しく解説します。

導入・運用コストの考え方と運用体制の整備

バスターミナルDXは非常に大がかりな計画であるため、システムの導入・運用にかかるコストの計算や運用体制の整備は、次のポイントに注意して慎重に進めましょう。

システム連携・運用を見越したコスト設計

DXではターミナル内にある既存のシステムと新たに導入するシステム・機器を集約・連携する必要があります。この際各機器単体の購入費用以上にシステムの連携費用がかかるため、これを前提として予算を組むのが重要です。
導入後はシステムの定期的なメンテナンスや、老朽化による機器の更新なども行います。

インターネット経由で利用できるシステム(クラウド)の利用

運用を支える人材・体制づくり

システムの活用方法も含め、もしデジタル運用に対する人材や知識が不足している場合は、人材育成やデジタル担当部署の設置を検討する必要があります。ただし、専門事業者への委託することで運用負担の軽減もできるため、これらもふまえて運用体制の構築について考えましょう。

事業者間データ共有の課題

バスターミナルでは、各バス事業者のデータを統合・連携するのにも課題は発生します。事業者ごとに利用しているデータ形式やシステムが異なることも多く、どのようにデータの標準化や統合を行うか、事業者同士で協力して考えなければならないでしょう。

住民・観光客のニーズ調査の重要性

バスターミナルDXを行う際は、事前にしっかりと住民・観光客ニーズを調査する必要があります。どれだけバスターミナルの整備やDX化がスムーズにできたとしても、そもそも住民や観光客にバスやターミナル利用の需要が存在しなければ、DXを行う意味はありません。また、ニーズとは見当違いなDXを行うことで、まったく効果が得られない可能性もあります。

計画を進める前にまず、バスの利用人数や利用者層、路線バスを使った観光の需要などについて十分にデータを集め、現状どのようなニーズ・課題があるか可視化することが重要です。また、DXや再開発を行うことでどのような効果が期待できるかも、具体的な数値として分析しましょう。分析結果にもとづいて計画を立て、技術導入や施設の整備を進めることで、DXの効果をより高めやすくなります。

官民連携での整備・再開発の進め方

ターミナルDXは行政・交通事業者・民間企業などさまざまな企業・機関が関与します。そのため、業務の範囲や役割をどのように分担するか慎重に考える必要があるでしょう。たとえば国交省の資料では、次のような整備・運用モデルが紹介されています。

※国土交通省「各論点に係る検討状況

運営における役割分担はすべてを行政で行うものや、建物・土地の所有以外は民間企業が担当するものなど、幅広いモデルが存在します。資金調達の方法としては、初期費用は「地域公共交通確保維持改善事業費補助金」や、「スマートシティモデル事業の公募」など国の支援でまかなうことも可能。

ただし、数年後に維持費が課題となるケースも多いため、広告料やテナント料といった民間の収益構造を組み込むなど、継続的に資金を生むための枠組みが必要です。実際バスタ新宿はコンビニや土産物店などから施設の維持管理負担金を得ることで、国が負担する維持費を開業当初から大幅に減らすことに成功※。今後さらにカフェや喫茶店などの誘致による収益増加を目指しています。

また、バスターミナルDXは行政や交通事業者のほか、地元商店街・住民・観光協会・不動産会社などさまざまな利害関係者が関与します。そのため初期段階からの情報共有や、合意形成を行っていくことが重要です。

※バスタ新宿事務局「バスタ新宿の管理運営に係る現状と課題について

まとめ

バスターミナルDXでできることや、国内外の先行事例、実際に取り組む際のポイントなどについて詳しく解説しました。現在バスターミナルDXによって、新しい形のバスターミナルが多く誕生し、街に新たな活気を作り出しています。まずは、現在のバスターミナルを、どのような形のバスターミナルへ変えていくべきか、考えてみてはいかがでしょうか。

なおWill Smartでは、バスターミナルDXに関する多様なシステム・ソリューションをご提案しています。ご相談やご質問があれば、ぜひお気軽にご連絡ください。