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業界人に聞く

元日Special社長対談 ANAセールス×Will Smart

近年、IoT(Internet of Things)、ロボット、人工知能(AI)、ビッグデータといった社会の在り方に影響を及ぼす新たな技術の開発が進んできています。経済発展と社会的課題の解決を両立していく新たな社会「Society 5.0」(超スマート社会)が国の目指す姿として語られ、まちづくりや人々の移動手段(モビリティ)は、時代とともに日々進化を遂げています。
今回は特別対談として、「旅×イノベーション」を軸に異業種との連携を加速させ、「ANA手ぶら旅行サービス」「ANAシェア旅」など、新たな取り組みで注目を集めるANAセールス株式会社 代表取締役社長 宮川 純一郎さん、IoT・クラウドシステム・AIなどのIT分野における先進的な技術を活用し、今年カーシェアリングシステム「Will-MoBi」をリリースした弊社 代表取締役社長 石井康弘のお二人をお迎えし、手段からサービスに変わる「移動」の未来、さらに企業におけるIoTの活用についてお話しいただきました。

お二人は以前ご一緒にお仕事をされていたとお聞きしました。

宮川 そうです。2009年、私がANAと楽天が共同出資する「楽天ANAトラベルオンライン株式会社」の代表として、ダイナミックパッケージ(以下、DP)業界のリーディングカンパニーをビジョンに掲げながら、新たな挑戦を繰り返し多くの商品を作り出していました。そこで中心的な活躍をしてくれたのが石井さんでしたね。今じゃ当たり前ですが、当時まず着手したのは携帯で飛行機と宿泊がセットになったDPを予約できるよう取り組みました。また旅行商品の予約期限って、大体2週間前とか10日前っていうのが通常でしたが、出発間際まで予約できるようにしたり、初めて海外旅行のDP商品を売り出したり。とにかく、新しいところにどんどん分け入って、色々なものを先んじてスタートさせようと意気込んでいたこの時代は、非常に楽しかったですね。

石井 改めて振り返ると、宮川さんが代表に着任された以降は、本当に新しい取り組みに挑戦しましたね。例えばDPとJR北海道が協業開発した飛行機と電車をワンストップで予約できる商品は、今でいうMaaSのプロトタイプ的な取り組みでしたよね。それからPCから予約するのが普通で、携帯で予約するなんていうのはちょっと微妙だよねという雰囲気の中、携帯で旅行商品を予約できるようにしましたよね(笑)。いざやってみると反応もよくて、今となったらスマートフォンで旅行を予約するというのは周知ですからね。

宮川 いや、本当に。だから当時の目標もあれよあれよという間に達成してましたね。

石井 そうですね。売り上げがどんどん増えたイメージです。結局のところ、当時やっていたことが、今の仕事にもかなり繋がっている部分があったんだなと改めて思います。

現在の取り組みなどを教えてください。

宮川 エアライン業界は、IoTやAIを導入し生産性や技術を向上させる流れが起きています。一例に、空港周りのランプバスを自動運転にする、荷物の搬入搬出などの運用をロボット化する、イレギュラーな事態に備えたシミュレーションにAIを活用するなど、様々な役割を効率化し、お客様へのサービス向上に取り組んでいます。
またマーケティング面では、グループ傘下それぞれの顧客データベースを一元化する事で、顧客接点の最大化を実現し、One to Oneマーケティングを実現させる動きもあります。

石井 確かに。今まで手付かず、介入していなかった部分がようやくIT化していくというのが、IoTの本質だと思うんですよね。当社の顧客に鉄道会社さんがいらっしゃいますけども、全く同じ話をされていて。現在は完全に人がやっていたところを、いかに技術転用していくかということに注力されています。あと、今後重要になってくるのは、ナレッジをシステム化していくということ。20年とか30年かけてプロフェッショナルなオペレーターを育成していたことが、AIに学習させ、最後は人が判断するという効率化も進んでいますね。

宮川 そうですね。IoTが進化することによって、既存の概念や産業構造にも変化が起きていて。自動車産業は、車を所有するビジネスから、モビリティープラットフォームという新たなビジネスモデルに進化していますよね。我々航空事業のエアラインの概念はトランスポーテーション、あるいは旅行事業の概念はツアーとなるんだけど、改めて考えると、人が出張や旅行でどこかに移動して、その先でホテルに泊まって、食事して飲みに行く。今まではそれぞれのアクションをお客様が個々に予約していたんだけど、これら一連の行動を「トラベル」という広い概念に変えてビジネスを展開していくことが、お客様の利便性やサービスの向上に繋がるのではないか。そういう流れで昨年11月に旅行のブランドの名前を全て変え「ANAトラベラーズ」にリブランドしたんですよ。

石井 なるほど。うちも子ども2人いるので、4人家族の旅行となると、食事代だけ考えてもかなりの金額になりますし、それなりに消費をしています。そういう意味では確かに半分以上の消費が実は空白地として残っている、そこに経済があるんですよね。一方で、飛行機を降りてしまったら、利用者と航空会社との接点は途切れてしまいますよね。でも、空港から出た後も何らかの消費活動をしているわけなので、いかに接点を持ち続けるかが、新しい市場開拓になるということですよね。

宮川 輸送業で売上増加を目指す場合、生産量やお客様の数を増やさなければならなくなりますが、お客様の旅の行程全体をケアできれば、もっと幅広くサービスを提供できます。ただ、新たな価値を提供していくためには、各会社がばらばらな動きをしていては駄目。お客様から見て一番簡単に、便利に、かゆいところに手が届く商品・サービスの提供ができたほうがいいだろうと。その最大化がトラベルだと思っています。

2019年はMaaS元年と言われ様々な企業が本格的な展開に向けて動いています。MaaSに関する活動を教えてください。

石井 弊社もMaaSに関する相談を受ける機会が増えていますね。そもそもMaaSはフィンランドで始まった動きで、マルチモーダルな交通手段をワンストップで提供し、決済も一緒にできるという考え方ですが、なかなか日本には当てはまらないと思うんですよ。俗にいうMaaSのプラットフォーマーみたいなところを日本の中で描くとしても、利害関係がぶつかるような気がしていて。

宮川 そうですね。弊社もMaaSに関しては、今年夏からJR東日本や様々な企業との連携が決まり、ANA本社のある汐留にMaaS推進部も立ち上がり、日々あれこれ試行錯誤しているようです。少し先になりますが、JR東日本の鉄道をそのまま羽田空港まで延伸して、新橋からノンストップで羽田に行けるようになるという計画もあります。そうすると、空港のない北関東とか北陸地方からのお客様にとって、圧倒的に利便性がよくなるので、鉄道を使って空港に来て、飛行機に乗ってどこかに行こうといった需要も増加してくるのかなと思います。

石井 いいですね。人が目的を果たすまでの全ての移動であったり、飲食だったり、コラボレーションする双方の消費行動データを共有化することによって、今まで見えていなかったお客さんの実態が見えてきますよね。連携することで、お客様にとって簡単、ワンストップで予約できるようになる、事業者間ではデータの相互連携が取れるっていうことになると、メリットは大きいですね。

2社はコラボレーション、オープンイノベーションなどを積極的に行っていますよね。うまくいくための秘訣はどういうところにあると思いますか。

宮川 自分のところのエゴが出過ぎるとよろしくないのかなって思いますよね。

石井 まあ、それはそうですね。

宮川 ANAは、スターアライアンスに入って20年経ちますが、そもそもアライアンスに入ったのは、自分たちの国際線事業における競争力や立ち位置が非常に弱いということをしっかり認識していたからなんです。もう自前だけではこのビジネスを軌道に乗せることは難しいと。そういった中、世界でも巨大で、古くからベースネットワークを持っている航空会社と一緒に協力していくことを選択したんです。この選択によって、それぞれのネットワークや、コスト、スケールなどのメリットもあるんだけど、一番大きいメリットは、相手のノウハウを吸収できたということですね。

石井 よく分かります。

宮川 今、うちは、国際線も国内線も一番大きいプレーヤーになってきているんだけど、コラボする時に気を付けなきゃいけないのは自社優先にならないこと。コラボする相手にとってのwin・winのメリットが提供できず、本当の意味でのコラボレーションがうまく働かないのかなと。ANAが楽天と組んだときも、恐らく自分たちに足りないもの、楽天から見れば自分たちに足りないもの、それを相互に補完する形であったから互いが前向きに、これは面白そうだ、という想いをもって協力できたと思ってます。

石井 なるほど。

宮川 アライアンスからいろいろ学ぶことも多いですよね。ANAがルフトハンザとコードシェアで東京とフランクフルト間を運行しています。そうするとお互いの運航便って、競合するわけですよね。でも僕らは、競合する路線を増便するっていう戦略。通常考えると、そんなところを増便したら相手は迷惑じゃないかと思われるかもしれませんが、実はその増便をすることによって、この路線のネットワークの競争力が高まり、ヨーロッパに行くお客様、ヨーロッパから来るお客様のパイをよりたくさん取ることができれば、ルフトハンザもうちもお互いハッピーになれますよね。これを互いのエゴで、俺の領空に入ってくるなと言いだすと、結局トータルの競争力が上がらないという話になっちゃうので。

石井 まさにネットワーク理論の話ですね。いま、弊社で事業特化型、事業課題解決型のAIソリューションサービスを展開していますが、ここもまたコラボレーションが生きているんです。僕らの会社にAIのエンジニアがいるわけじゃなくて、技術系のベンチャーと一緒に組むことでこのサービスを作り出しているんです。技術系ベンチャーって技術は磨けるけど、事業上の課題を見つけるっていうのは、非常に苦手。じゃあ僕らが課題解決の方法を作りますという役割分担によるコラボレーションになっています。やるべきことは僕らが考えているので、あとは実装してくださいという流れになれば、スピードが手に入るので、かなり早期で立ち上がるという相乗効果が生まれています。

コラボレーションにおける課題点はありますか。

石井 ここ数年、今まで単独でやっていたような会社から、弊社とのコラボレーションを希望される話も急増していて。そこで共通しているのが、その会社の新規事業部門は積極的に組もうとするけど、実際のオペレーションをやっている部門が全く動きません、という話。

宮川 それは本当にありますよね。アライアンスパートナーだろうが、うちの事業部の取り分が減ってしまう。それは現場の目で見れば確かにそうなんですよね。
私は2018年の3月まで九州支社にいたので、九州全体の売上目標を追って努力するが、航空券にしても旅行にしてもウェブ化が進んでいますよね。エリアや管轄の売上だけが目標となってしまっているとするとウェブの売り上げってどこのエリアの売り上げだって話になってしまってなかなか全体最適の目にはならない。時代の変化に沿って全体に貢献した評価ができる評価軸を持っておかないといけないっていう話ですよね。

石井 なるほど。これまでは支社間とか部門間だったものが全体的な評価に変化してきているので、コラボにおいても会社間の取引の枠をどう広げたっていう評価システムに変えていかないといけないということですよね。

宮川 そうです。今、持ち株制の下、様々な事業会社があり、その事業会社はそれぞれの事業収益を上げ、グループに貢献しなきゃいけないというのがあるわけですけども、これを突き詰め過ぎると、結局、個社最適の集まりになってしまって。

石井 そうなっちゃいますね。

宮川 これからICTが発達して、顧客データ基盤が出てきたときに、僕らの思考回路もトータルでの最大の価値提供とか収益っていうのを考える頭になっていかないとですね。

石井 おっしゃるとおりだと思いますね。必ずしも自社で買わなくとも、うちを経由してくれたんであれば、それは一つの経済活動に関与しているわけだから、その点をどういうふうにして数値化していくか、関与度みたいなものを構築していくことが重要ですよね。自分のところに直接的にお金が落ちればいいけれども、落ちなかったとしてもマーケットを大きくするところに寄与しているわけで、これは重要な市場だということを、しっかり認識していかなければならないですね。

宮川 そう思います。

シェアリングについて

宮川 最近の面白い話だと、ハワイ。今、旅行会社とか航空会社では、お客様用にトロリーバスを走らせているわけですよ。一方、ハワイで問題になっているのが、各社がバスを走らせることで渋滞を引き起こす原因や排ガス排出の要因になっていたりもします。その解決策として、自社のブランドでバスを走らせることを優先とせず、相乗りを進めるという流れもあります。エアラインも今はコードシェア、アライアンスを組んで、自分では運航しないんだけど、ネットワークを持っているっていうことが大事。いわばサプライヤー間でのシェアリングですね。

石井 まさに環境問題に取り組む事は、企業ブランディングにおいても重要ですよね。今、カーシェア業界は、まさにSDGsの関係もあって脱炭素に向かっていますよね。うちも今年の10月からカーシェアのシステムプラットフォームをスタートしているんですけれども、非常に反応がよくて。弊社株主の四国電力さんや実証実験を行っていただいたエネクスオートさんとは電力の自由化や人口減で売上も減少傾向となる中、新しいチャンスは何かと考えた時、シェアリング、EVなどの新規参入によって新たな形で電力が売れていけばいいよねと。じゃあ今まで、そういったエネルギーの仕事をしていた人たちが、ビジネスデザインの中にシステムを組み込むというのは、非常に難しいですよね。正直そのケイパビリティーはないので。そこを補うのが僕らのサービスです。うちがシステムを提供するので既存システムとくっつけてもらうだけで新規のカーシェア事業がすぐにスタートできます。

宮川 いいですね。エコロジーに対して関心の高いマーケットは、すぐに響いてくるかなと思うし。今オーバーツーリズムで、環境が非常に影響を受けているので、観光っていうワードに対して割とネガティブなセンチメントもあったりして。うちも今、ハワイでEVバスを2台走らせてます。カーシェアやレンタカーなんかも本当にEV化する方向が進むといいですね。日本では沖縄とか可能性ありますか。

石井 沖縄の場合、パーク・アンド・ライドの需要が高いです。前回行った際、金曜日の夕方帯に走っていたら、那覇市内に入ってくる交通量があまりにも多い為、通常10分のところ40分ぐらいとか50分ぐらい平気でかかっちゃうんですよね。モノレールが延伸して、将来構想として大きな駐車場を作って、そこから乗り換えてもらうっていう動きの中で、パーク・アンド・ライドとEVを設置して、ワンストップで手配できるサービスなんかは非常に先進的だし、取り組む価値はあるかなというふうに思ったりしますね。

宮川 リゾートホテルにいくのも、みんなレンタカーに乗るけど、目的地に行くだけでそんなに使わないじゃないですか。だから、実はホテルまでトランスポートがあって、名護とか本部、美ら海へ行きたい人は、そこから車に乗れるようにすればいいんじゃないのかなと。さらに、空港に着きました、そこから交通機関で目的地まで行きます、それでレンタカーやカーシェアの車の鍵を開けて乗って、この一連の過程が1個のアプリの中で賄えるっていうことになるといいですよね。

石井 賄えます。今、僕らが作っているカーシェアシステムも、APIで全部提供しているので、例えば御社のアプリで予約された方は、そこからうちのAPIをたたいてもらえば、そのままアプリから人を介さずに車のドアを開けて、予約記録さえ持っていればそのままスタートできるという仕組みになっているので全部アプリ完結できます。

宮川 それはすごい。

石井 かつ、無人貸し出しをするので、車の状態っていうのは全部データを取っているんです。なので、位置情報から燃料の残量、正直どこへ行ったか全部分かっちゃうんですよ。車を貸し出すことによって、着地した人がどこに行っているの全部可視化できるようになります。

宮川 なるほどね。

石井 消費行動が全部定量的に測れるという形になってくるので、例えば北海道に千歳から車を借りた人は、札幌へ行かずに、洞爺湖回りで行っている人も結構いるよねとか、そういう動態が分かる。その結果、また新しい顧客行動から見る商品開発につながったりすると思うので、二次交通の旅行動態を定量的に取れる仕組みにもなります。そういった意味で無人のカーシェアっていうのは非常に有益かなというふうに思いますね。それがかつEVだったら、なおさらいいんですけどね。

宮川 なんか面白そうですね、一方でこのようなシステムを自社で装備するときに、ものすごい重たくて、機能性だとかコストだとか、この面をどうするのかっていうのはすごく大きな課題ですよね。

石井 そうですね。実は今回作った仕組みというのは、海外の企業とのコラボレーションで作っているんです。この会社のシステムは世界トップクラスで使われているカーシェアシステムで、それを下地に僕らが日本向けの需要に置き換えて作っているんです。修練されてきた後のものを下地にしているので、非常に使い勝手がいいですし、非常にローコストでスタートできるようなところがありますね。

宮川 これからは、とにかく本当にライトな形でスタートして、プロトタイピングしてどんどん変えていくっていうようなことをやっていかないと。

石井 そうですね。某交通会社の社長さんから言われたんですけど、昔だったら通算、多分2桁億ぐらいシステム投資してやったシステムが、今は全然使い物にならなくて。それ、リプレースするかどうかというときに、もうやめようと、新規で作るのを。もうパッケージとか出来上がったものに対してライセンス料だけ払えばいいじゃないっていう考え方を、まさにおっしゃっていて。そうしないと、もう速さが手に入らないし、フレキシビリティーが手に入らないというのもあるので。

宮川 下手すると開発している途中で環境が変わってしまったりして。

石井 なので、もうできるだけ完成度が高いもの、ライセンスも、システム資産もあまり持たずに、ビジネスだけ軽くしていくというのが重要だと思いますけどね。そういうお手伝いを今していますので、ぜひ。

宮川 なるほどね。シェアリングの話でいうと、うちもこの前リリースした「シェア旅」は、シェアリングをやっているプレーヤーとコラボすることによって、旅行のいろんな過程の中で、借りる、共有し合う、あるいはなにかを提供してもらってということを推奨しています。その辺りでは御社ともこれから提携の余地があるかなと思いますね。

石井 あとは地域を絞っていくと、環境配慮型のモビリティを提供するとかっていうのはいいなと思いますので、ぜひ一緒にやっていければと思います。

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