1. HOME
  2. 業界人に聞く
  3. ライドシェア解禁にむけて結局何を議論しているの?“ライドシェアを読み解くすべ”を専門家に聞いてみました!
業界人に聞く

ライドシェア解禁にむけて結局何を議論しているの?
“ライドシェアを読み解くすべ”を専門家に聞いてみました!

業界人に聞く

2023年9月に、菅前総理大臣が地方や観光地で課題となっているタクシーや公共交通機関の不足を解決するための手段として、一般のドライバーが自家用車を使って有料で人を運ぶ「ライドシェア」に言及したことがきっかけで、現在「ライドシェア」解禁の賛否を巡って様々な議論が行われています。

タクシー運転手の減少や高齢化などが原因で観光地や地方を中心に深刻なタクシー不足に陥っていることから、「ライドシェア」を地域交通の課題解決の切り札として期待する声も多くある一方で、タクシー業界からは「ライドシェアの解禁がタクシー業界の労働条件を悪化させる」「事故が起こった際の最終責任がドライバーとなるため十分な補償ができない」として反対の声が上がっていることも事実。

そのような状況のなか、2023年12月20日に岸田文雄総理大臣がデジタル行財政改革会議にて2024年4月からライドシェアを条件付きで解禁することを発表。解禁に向けた制度の改正などが急務となっています。

本記事では「ライドシェアに賛成か、反対か」でまとめられがちな本トピックスを、国土交通審議官や観光庁長官を歴任し、長年にわたり交通行政・観光行政に携わっている田端 浩さんに、今後の議論のポイントやライドシェアに関する議論を読み解くすべについて見解を伺いました。

ライドシェアの現在の状況

国内のライドシェア解禁に向けた現在の状況を教えてください。
田端氏(以下、敬称略):まずは一旦整理させてください。現在ライドシェアには2つの方向性があります。1つは道路運送法第78条第2号(以下、2号)「自家用有償旅客運送」の制度を改定し、自治体が主体となって行うライドシェアです。2号に基づくライドシェアは移動が困難な地域などに限って例外的に行われており、2024年2月の「デジタル行財政改革会議」では全国の約20の自治体が運用を始める見通しだと報告されています。加賀市でも最近始まりましたよね。

もう1つは公共の福祉を確保する目的において「自家用有償旅客運送」を許可する、道路運送法第78条第3号(以下、3号)を根拠としてタクシー事業者が運営を行うライドシェアです。これがまさに今議論されている、タクシー事業運営の規制緩和によるライドシェアのことです。二種免許を持っていない一種免許の人もドライバーになれるような仕組みを取り入れながら、タクシーの配車アプリで集められたデータを活用して都市部や観光地においてタクシーが不足している地域や期間、時間帯を判断しながら、供給力を上げていこうとしているんですよね。現時点ではタクシーが不足する地域や時間帯限定でタクシー会社の管理下で運行し、ドライバーはタクシー会社と契約することという条件付きでの解禁となる予定です。
ただ、日本型のライドシェアの制度についてはまだ決まっていないことも多く、解禁にあたって懸念されている安全性や利便性の確保に向けてさらなる検討が進められています。
また、「現行法の運用を柔軟化させるだけでは移動の課題を解決するのに不十分だ」として新法の制定を求める声も上がっています。

※参考(編集部提供)

今後議論すべきポイント

ライドシェア、と言っても運営主体によって運用方法やルールが異なるのですね。ライドシェアの解禁に反対する声もあるなかで、今後議論すべきポイントは何だとお考えでしょうか?
田端:3号に基づくライドシェアが一部解禁されることで、地域交通の課題解決に向けて一歩二歩の前進にはなると思います。ただ、今の道路運送法の範囲内で法律の運用や運用基準の規制を緩和していきましょう、という方向性なので、利便性などを考えると4 月の解禁の段階では対症療法に過ぎないという意見もあり、その点については議論していく必要があると思います。

経済同友会が2024年2月1日に「わが国における効果的なライドシェアの導入に向けて~なんちゃってライドシェアで終わらせないために~」という提言※1を発表していますね。
提言の中で経済同友会は3号に基づくライドシェアについて「タクシー乗務員不足を少しでも補うための応急措置に過ぎずライドシェアとして位置づけられるものではない。」と書いていますが、現行の法規制をもとに制度の拡大などの見直しをしていることについては一定の評価ができるものの、本来目指しているライドシェアの形ではないですよ、ということなんですよね。

繰り返しになりますが、タクシーが不足する地域、時期、時間帯を特定して行うライドシェアは供給力不足解消の一助にはなるけれど、制度としてはやはり不十分で、活用も限定的になってしまう可能性が高いと思います。そこに危機感を感じたほうが、議論はより進むのではないかと思っています。

※1 公益社団法人 経済同友会「わが国における効果的なライドシェアの導入に向けて~なんちゃってライドシェアで終わらせないために~」
https://www.doyukai.or.jp/policyproposals/articles/2023/240201.html(外部リンク)

ライドシェアに必要な体制づくり

ライドシェアを「応急措置」で終わらせず、一般利用者が地域交通の一つとして活用するためにはどのような体制づくりが必要だとお考えでしょうか。
田端:現在の状況は取り急ぎタクシー事業の規制緩和によってドライバー不足を少しでも解消しようという狙いがあるのだと思いますが、本当に利用者のためを考えるのであれば、やはり規制改革会議で議論しているような料金や地域、時間帯を規制しない本格的なライドシェアを行うための体制を作っていく必要があると考えています。

経済同友会も提言の中で「安心・安全の確保のために新法の制定が早期に必須。導入時期はいわゆる「骨太の方針」に明記して、臨時国会で新法を制定するべきだ」と書いているんです。

利用者の利便性向上や大規模な人材活用のためになる仕組みを考えて、規制改革会議でしっかりと議論をしてもらいたいですね。そういった点を議論しなければ、それこそ、「なんちゃってライドシェア」で終わってしまうでしょう。

料金や地域、時間帯を規制しないライドシェアを実現するにはやはり新法の制定が鍵になるのでしょうか?
田端:新法の制定も視野に入れながら、6月に向けて本格的なライドシェアの確立に向けて、安全性やドライバーの確保をどうするか、といった課題をクリアするにはどういう制度設計にしたらよいか考えていくことが必要ですね。
これは今まさに、規制改革会議※2で議論されていて、安全性を確保するために事業者に義務付けるべきことや、ドライバーを契約で縛らないで副業・兼業も認めること、ライドシェア運用に地域や時間、台数の制限をかけないことなど、生産年齢が減少していることを踏まえた制度設計を検討しています。

ただ、あまり安全対策に力を入れすぎると規制が強すぎて、ライドシェアの運営事業者に負担がかかりすぎてしまう可能性もあるのではないかと思います。利用者と事業者双方が活用しやすい制度になるよう、議論を進めてほしいですね。

※2 「規制改革推進に関する中間問答」
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/publication/opinion/231226.pdf(外部リンク)


ニュースを読み解く際のポイント

ライドシェアについて、今後のニュースを読み解く際のポイントがあれば教えてください。
田端:報道を拝見していると、単純にライドシェアが安全か安全じゃないかという二律背反みたいな報道が多い印象があります。
もう少し冷静に、「こういう課題がクリアになったら安心してライドシェアが利用できるようになるのではないか」というのを公開されている規制改革会議の答申などを見ながらライドシェアについて考えてほしいですね。OECD加盟38ヶ国中25ヶ国でライドシェアが制度化され、広く提供されていると言われています。

ライドシェア推進のキーワードは「共存」なんですよね。“タクシーに乗るのを辞めてライドシェアに転換すべき”と言っているわけじゃなくて、利用者に様々な公共交通の選択肢を提供して、自分で選んでもらうことを重視しているんです。
「タクシーのほうがやっぱり安心だから良い」と考える方はタクシーを選べばいいし、「タクシーより手配しやすいライドシェアの方が良い」と思えばライドシェアを使えばいいんです。
運転免許持っていない方や、ご高齢で運転が難しい方にとってはタクシーに加えてライドシェアの選択肢もあった方が生活するうえでの利便性が向上しますよね。インバウンド旅行者もアプリを使って自分の言語でライドシェアを手配して、会話しなくても利用できるほうが便利でしょう。
やはり、利用者が快適な移動が実現できるように、という視点でライドシェアに関する報道を見ていく必要があるのではないでしょうか。

公開されている情報に目を通したうえで、各種報道を読み解いていくのが健全なのだろうと私は考えています。

ありがとうございます。私たち編集部の理解もとても深まりました。
今後、いろんな公開情報を見たうえでライドシェアがどうなっていくか読み解きながら、自分なりの意見をまとめていければと思います。
田端:そうですね。まずは6月に政府の規制改革会議での議論がどのように結論付けられるかが次のポイントだと思います。

(取材日:2024年3月13日)

お話し:田端 浩氏
【プロフィール】
1981年4月運輸省(現国土交通省)入省。外務省在オーストラリア日本国大使館一等書記官、岡山県警察本部警務部長、国土交通省自動車局長、大臣官房長、国土交通審議官、観光庁長官を歴任後、2020年退官。玉川大学観光学部客員教授。東京大学法学部卒。