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【Special社長対談】九州大学名誉教授村上和彰氏×Will Smart 石井代表が考えるDXとは何か?~第1回~

新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに社会を取り巻く環境は劇的に変化し、多くの企業にとって生き残りをかけたDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が喫緊の課題となっています。

経済産業省によるDXレポートの中でも「2025年の崖」と称し、もしDXが進まなければ「2025年以降、最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性がある」と警鐘を鳴らしています。

一方で企業からは、「DXとはそもそも何なのか」、「何をどう進め方たらよいかがわからない」、という声が多く、「とりあえずシステムを導入してみたけど現場で使われない」という課題が生じることも少なくありません。

そのような状況を受け、全3回の特別対談企画として、株式会社DX パートナーズ代表取締役、九州大学名誉教授の村上和彰氏と株式会社Will Smart代表取締役社長の石井康弘氏をお迎えし、企業のDX推進についてお話しいただきました。

初回となる今回は、DXとは何かについてお伺いしました。

DXの本質は「経営」にある。

石井:DXが今、企業にどのように拡がっているのか。業界の景色をどう捉えていらっしゃいますか?

村上:DXの力で、企業の何を変革させるのかというと、「新しいビジネスを進める」「既存のビジネスモデルを変革させる」という2軸があると思います。各企業でこの2つが同時並行的に進んでいますが、特に力を入れているのが後者の「既存のビジネスモデルを変革させる」取り組みでしょう。というのも「新しいビジネスを進める」には、豊富な人材・リソースが求められます。しかし、外資のコンサルティングをしていたような人材を頭に据えても、なかなか上手く進まないんです。欧米系のコンサルファームが推奨するような「CDOをCEO直轄で置く」等の形は、日本の企業の仕組みとは大きく異なるので浸透しないんですね。新たに増やす人材・リソースと、現場との意識の乖離が起きてしまうので、「新しいビジネスを進める」からスタートするのはリスキーだと考える企業が多いのです。

石井:日本特有の環境かもしれませんね。

村上:そうですね。大企業であれば、豊富な人材・リソースをスムーズに集められる場合もあるでしょう。しかし、中小企業の場合は特に難しいと思います。人材・リソースの不足も顕著ですが、そもそも経営層がDXの必要性を理解していない。実際は中小企業の方がスピード感を持って変革に取り組めますし、DXをバネに飛躍できる可能性は非常に高いのですが。トップに立つ人間の経営スキルが不十分でも、ある分野での知見を豊富に持っていれば「今は」生き延び続けられます。ただ、企業変革が求められる未来、知見を持つのはあくまで前提条件。知見と、経営能力・経営センスを併せ持つ中小企業のトップ…これは限られると思います。人材・リソースが足りないからといって、DXはどこか違う世界の話…と思っているのは危険です。実際、中小企業だったAmazonがDXを駆使して破壊的なイノベーションを起こした歴史もありますからね。DXは「破壊者」に勝つ唯一の方法であるとも取れます。

内科的?アスリート?「DX」とは何かを捉え直す。

石井:AmazonがDXを駆使して覇権を取り始めたのは20年前。大規模のビジネスを、僅かな期間で立ち上げてスケールさせたのはデジタルの賜物です。他にもUberとかAirbnb等のビジネスが発展しましたが…売っている商品は「物流」「部屋」「座席」と、デジタルではなく寧ろアナログですよね。様々なAPIを使って「物流」「座席」「部屋」を管理するシステムをあっという間に作り上げて、他社の追随を許さないスピード感での成長を実現しています。普通は5年掛かってしまうようなビジネスが数ヶ月で実現したんです。同じビジネスを考えていてもDXの手法で立ち上げるのと、従来の方法で立ち上げるのではスピード感がまるで違う。「やらなきゃ負け」ですよね。

村上:おっしゃる通り、スピード感が違いますね。

石井:実は大規模なシステムを作るという実体験を得るのはそんなに難しくないと思っています。システム構築に必要なデータは、オープンデータから集めればいい。どれを組み合わせれば必要なパーツが埋まるのかを判断して、組み立てるためのツールだけ自分たちで作るんです。このオープン化の動向であったり、外部ネットワークをどう活用するかの部分を押さえれば、システム構築に挑戦できると思うんです。

村上:自分の会社の商品も自前主義に拘りすぎずに、既にある物を利用しながら作り上げる方が合理的ですよね。オープンソースから誰かが作った下地を拝借して、自分たちのオリジナリティを重ねる。実は、最近はゼロから作っているという事例は少ないんですよね。誰かが作った下地に何を乗せれば新しいビジネスとして打ち出せるのかを考えるべきかと。

石井:DX人材と言うと、多くの人はPythonやAIを扱える「ハード」スキルを持っていると想像します。ですが、先程申し上げた通り、本当に必要なのは経営能力・経営センス、すなわち「ソフト」スキルです。敢えて実現可能・不可能を度外視してソリューションを検討する想像力。この「ソフト」スキルを持つ人材の能力が、デジタルツールを導入することで加速する…これこそがDXの醍醐味ですね。

村上:「Pythonを使いましょう」「AIを使いましょう」という「ハード」スキルの導入から入るからDXのハードルが高く見えるんですよね。ツールに対する知見よりも、「ソフト」スキルを優先しその後で、どのような「ハード」を使うべきか取捨選択するのが順序として適切だと思います。言わば、「外科的」に新しいツールで改善するのではなく、ビジネスプロセス全体を見てどこを改善すべきかを「内科的」に捉えるべき。

石井:「内科的」なアプローチ、ですか。

村上:私は「メタボのジョガーを短距離走のアスリートに変える」という例えをよく使います。メタボのジョガーを短距離走のアスリートに変える時には、「走り方」と「筋肉」の両方を変える必要があります。両方を同時並行でコーチングするのです。「筋肉」を使って、「どう走る」か。すなわち、「人材・リソース」を使って、どんな「ビジネスプロセス」を踏むか、ということです。こう考えると、デジタルツールはシューズやトレーニングウェアとしての位置付けですね。新しいシューズを買っても、それだけでは速く走れません。あくまで、「筋肉」「走り方」をサポートする物としての位置付けなのです。

敢えて仮説を立ててみる。データがなければ自分で作る。

村上:Will SmartさんではDXについての案件をどう進めているのですか?

石井:まずはクライアント企業のビジネスモデルの理解を深めます。全体のオペレーションの仕組みが分かって初めて、どこに無駄があるのか分かるのです。この「無駄」を把握してからどのようなデジタルツールを導入すべきか判断するので、そもそも導入する「ハード」が先に決まるなんてあり得ないんですよね。

村上:なるほど。「全体のオペレーションの把握」といえば、最近は経営層しか頭を使っていなくて残りはすべてオペレーションという構造を持っている会社もありますね。DXの力でオペレーションフローを改善したいのに、各セクションでどのような仕事をしているのか等全体を把握している人がいない。

石井:課題解決においても、意思決定においても、一部の人に任せ切っている企業がありますが、これからの変化の激しい時代の中では一人の人間の判断では舵取りを誤り、座礁するかもしれません。大きな氷山にぶつかる可能性もありますよね。だから、様々な課題について「仮説を立てて検証する」を徹底しなければ。データを適切に用いて課題を解決する方法を探り、「ヒット率の高い」意思決定をする。そのためには、普段から多様なデータを意図的に増やす心掛けが必要です。決まったルールで行う仕事でも、「もしもルールが違ったら?」等、普段から意図的に仮説を立てて仕事を行う。その時のちょっとした発見は「多様性のあるデータ」として残り、大きな問題が起こった際の解決の糸口になるかもしれません。

村上:私も敢えて仮説を作る場面は多いですね。課題に対して、どのようなデータがあれば解決するかを想像するんです。社内にデータがなくても統計データやオープンデータで間に合う場合もありますし、お金を出せば購入も可能です。

石井:世の中にデータが存在しなければ、取引先の方やお客様のインサイトを測るアンケートを実施する方法もありますね。自分たちでデータを作ってしまうという発想です。データが見つからずに思考停止するのではなく、いっそ自分たちでインタビューしてしまいましょう、と。デジタルツールを使ってもいいし、アナログなインタビューでもいい。能動的にデータを集めるという姿勢が大切ですね。

▼第2回に続く。)

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