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セミナー・体験レポート

「Will Smartユーザカンファレンス2024」開催レポート

2024年11月13日(水)に「Will Smartユーザカンファレンス2024」を開催いたしました。
今回のカンファレンスは「人口減少時代における次世代の交通デザイン」をテーマに、Will Smartが目指す「移動の利便性向上」を実現するために必要な社会変革の方向性について示しました。

Will Smart代表の石井からは人口減少時代におけるDXの必要性とWill Smartの今後3年間の成長戦略についてご説明したほか、Will Smartと共に社会課題の解決に取り組む顧客企業のご担当者様に登壇いただき、「人口減少時代における移動需要の創出」をテーマにトークセッションを行いました。

【基調講演】次世代のモビリティを検討する上で欠かせないのは「マーケットイン」の行政の実現。マーケットと向き合い、今ある問題を先送りしないことが改革につながる。

当カンファレンスは元観光庁長官で現在Will Smartの顧問を務める田端 浩様の基調講演からスタートしました。
田端氏は国土交通省自動車局長、大臣官房長、国土交通審議官、観光庁長官を歴任後、2020年に退官。
国土交通省在職中に自家用有償旅客運送制度を創設した経験から、次世代のモビリティを確立するために必要な行政の意識改革についてお話しいただきました。

田端氏は、現在の喫緊の課題である交通空白地の解消に向けて、行政が社会インフラとして次世代のモビリティの仕組みを構築する必要があると述べ、「鉄道やバスなどの従来の公共交通機関と同様に、安全運行を確保することは最低条件です」と強調しました。さらに、地方自治体やNPO法人、利用者の声をよく聞き、彼らが求めているものをいかに実現していくかが重要であると述べ、そのためには行政が“マーケットイン”の意識を持つことが欠かせないと指摘しました。

また、田端氏は交通空白地の解消に寄与するとして注目を集めている「公共ライドシェア」の根拠となる「自家用有償旅客運送制度」を創設した経緯について語り、交通事業者から「今あるタクシーを使えばよいのでは?なぜ“白タク”のようなものを認めるのですか?」という意見が多く寄せられたことを紹介。
過疎が進む地域では公共交通の担い手が不足しており、新たな交通手段が求められている現実があるため、「マーケットが何を求めているのかを念頭に置き、取り組みを阻害するような法規制があるならば無くしていくべきだ」と強調しました。

さらに、2024年6月の訪日外国人旅行者数が過去最高を記録し、滞在期間の延長や消費単価の上昇により消費額が8兆円に迫る勢いである一方で地方に行くほど公共交通が脆弱で、観光地や宿泊施設への移動に困っている旅行者が多いことを指摘。
「日本の生産年齢人口が減少し、消費の減少が懸念される中で、インバウンド消費の効果を最大化するためには、駅や空港から目的地までの交通網を改善し、旅行者の移動の利便性を向上させることが重要。」と述べました。

田端氏は最後に「デジタルツールを活用したマーケットの現状把握や輸送サービスの効率化が可能な現在は、次世代のモビリティ構築を検討するのに最適なタイミング。今ある課題から目を逸らさず、既存の仕組みを見直してマーケットインの行政を推進してほしい」と述べ講演を終えました。

【成長戦略】人口減少時代のDXのポイントは収益性や利益率の向上と人手不足の解消を両立する基幹システムへの刷新。

続いて、Will Smart 代表取締役社長 石井康弘より、私たちを取り巻く国内の社会課題への見解と今後3年間の成長戦略についてお話しました。

はじめに2024年4月16日に東京証券取引所グロース市場に上場を果たしたことを報告。

そして当社の事業分野である鉄道やバス、タクシーなどの産業でも労働人口の減少が社会課題となっていることに言及したうえで、今後3年間の主要テーマとして「企業のDX支援」「交通・観光分野における地域共創」「新しいモビリティサービス」の3つを挙げました。
まず、企業のDX支援においては「事業運営における基幹システムを刷新することで人的作業を大幅に削減しつつ、売り上げや収益性の向上なども同時に実現できる」とし、レンタカーシステムをリプレイスし、通常は人が行っているレンタカーの貸渡業務を無人化すると同時にダイナミックプライシング機能を導入して予約単価の向上を実現させた事例を紹介しました。
また、交通分野においては複数の自治体におけるデータ分析基盤の構築や公共ライドシェアの取り組み実績を活かして計画段階から分析・対策まで一気通貫で対応することを目指すと同時に観光分野ではチケット予約販売システムの構築やデジタルサイネージ等を活用した観光情報の配信など、旅マエから旅ナカまで観光DXの推進を地域共創で取り組んでいくと述べました。
さらに、モビリティに特化したDX推進基盤「Will-MoBiプラットフォーム」へライドシェアやEV充電サービスなどの機能も拡充し、新しいモビリティサービスの創造も進めていく予定だと説明しました。
最後に「Will Smartがお客様同士をつなぐハブとなってさらに共創による「移動の進化」を推進していきたいと考えております。」と意気込みを語りました。

【トークセッション】人口減少時代における移動需要の創出

カンファレンス後半では「人口減少時代における移動需要の創出」をテーマにパネルディスカッションを行いました。
高速バスマーケティング研究所代表 成定竜一様にモデレーターを務めていただき、一般社団法人九州MaaS協議会事務局長 木下貴友様、九州産交バス株式会社 今釜卓哉様にご登壇いただきました。
冒頭に成定様から現在の公共交通に対する問題提起を述べていただいた後、木下様と今釜様から取り組み内容を発表いただきました。

人口減少に伴い「奇跡の通勤通学マーケット」は終焉を迎えた。環境の変化合わせたビジネスモデルの転換が必要。

成定氏はまず、日本の公共交通が危機に瀕している理由について、「民間企業がその運営を担ってきたためである。」と述べ、日本の高い人口密度と歴史的な背景により、公共交通は民間事業として成り立ってきたと説明しました。
明治以降の近代化と急激な人口増加、戦後農業から会社勤めへと転換したことに伴い、「奇跡の通勤通学マーケット」が誕生し、それに伴って新たな路線を引いて沿線を開発する「日本型私鉄経営モデル」が確立されたが、現在の人口減少や少子高齢化によりそれは縮小しつつあるといいます。
成定氏は、「何もない土地に鉄道を建設して人口を集めて経済圏を作ってきた先人たちの勇気を思い起こしながら、今こそ新たな一歩を踏み出すことで公共交通の危機は乗り越えられるはず」と語りました。

「競争」から「共創」へ。九州が一体となって持続可能な地域交通をつくる。

冒頭で木下氏は九州の公共交通について「人口減少やコロナ禍の影響、担い手の不足で危機的状況にある。特に高齢化率も高く免許返納者や買い物困難者も増加している。また、観光資源が広域に分布しているものの、観光地までの二次アクセスが乏しい、一人当たりのインバウンドの消費額が全国平均に比較して低い、といった課題がある」と述べました。そして、木下氏は、厳しい経営環境下に置かれ、既に競争が成立しなくなっているマーケット内で「競争」が行われてきた状況に触れ、MaaS(Mobility as a Service)の概念が登場したことで、様々な交通サービスや観光、生活サービスを連携させる「共創」による移動需要を創出するという新しい考え方が出てきていることに言及。「MaaSの実現には交通事業者や地域が一体になることが不可欠。九州では、バスと鉄道の競争が激しかったが、その歴史を乗り越えて九州内の交通事業者各社の輸送サービスを連携させる動きが各地で出始めており、九州全体へ共創の輪を広げることができた」と語ります。

一方で官民連携によるMaaSの取り組みが各地で進められていく中で、九州内に複数のプラットフォームが乱立する恐れや取り組みを推進するための各社のリソースの不足、各県単位での取り組みを進めることの限界など多くの課題も浮上。それが九州一体でMaaSに取り組むきっかけとなり、九州経済連合会が主導する「九州MaaS協議会」の設立にもつながった、と説明しました。

九州MaaS協議会の具体的な施策としては、バスと鉄道の乗り継ぎを考慮したバス停の移設などの環境整備やダイヤ改正などのフィジカルな連携、カーシェアやシェアサイクルを駅に導入することで「ラストワンマイル」を補う取り組みを紹介。「MaaSアプリの導入などのデジタル技術の活用だけでなく、フィジカルな連携も同時に進めていくことが持続可能な地域交通をリ・デザインするうえで欠かせない」と強調しました。

現在、九州MaaS協議会の参画会員数は100を超え、MaaSアプリのダウンロード数も100万件を突破。直近ではインバウンド向けの周遊チケット「ALL KYUSHU PASS」の販売を開始し、これまで訪問者が少なかった南九州など九州内各地への広域での回遊性の向上とインバウンドによる消費額の拡大を目指す取り組みなども進めている。「今後は自治体の政策や他業種との連携をさらに強め、九州が一体となって、持続可能な地域交通の構築、観光の競争力向上を目指していけるよう取り組みたい」と締めくくりました。

データ分析システムでスピード感のある合意形成・施策実行へ

九州産交バス株式会社で共同経営推進室を担当する今釜氏からは、Will Smartの交通データ統合分析サービスを活用した施策の検討や業務効率化についてお話しいただきました。

今釜氏は冒頭で県内のバス事業者5社で1日約7万5千人の移動を支えていることや、コロナ前から県内バス路線の8割以上で採算がとれていないうえ、運転士不足などの影響で数年先のサービスの維持が懸念されていることなど、熊本県のバス事業を取り巻く厳しい環境について解説。
共同経営推進室は発足から丸5年が経過し、各社から1人ずつ担当者を派遣し、熊本県・熊本市も交えて運営されています。今釜氏はデータを活用した施策に取り組むようになった経緯について「会社によって企業文化が異なるため、施策を実行するうえでの合意形成が特に大変で、そのためにデータを活用した説明を実施するようになった」と語ります。
とはいえ、異なる会社同士のデータを集約するのは手作業では膨大な時間がかかるため、集計や分析作業の時間を削減するためにデータ分析システムの導入を決めました。
Will Smartのデータ分析システムを選んだ決め手としてはデータ分析に詳しくない人でもわかりやすいUIであることや、たくさんのデータを取り込んでも重くならないこと、多額のリプレイスが必要ないことを挙げました。
データ分析システムを活用した事例として、輸送人員と運行本数のバランスを調整する「重複区間の最適化」や、バスの運行間隔を15分以内に整える「待ち時間の平準化」などを紹介。これらの取り組みによって毎年1億円程度の収支改善効果や必要な人員の削減などに成功しているものの、依然として多額の赤字を抱えており持続可能な公共交通は実現できていないと言います。
持続可能な公共交通を目指すため、いま共同経営推進室が実施しているのが「利用者倍増」に向けた取り組みです。IC定期券の区間内であればすべてのバスが利用できる「共通定期券」をはじめとする様々な施策を実施して2年間で約143万人の利用者増加につながったそうです。

最後に今釜氏は「利用者を倍増させるためには公共交通への社会的投資が欠かせませんが、そのためには公共交通のサービスを向上させて公共交通がもたらす社会的便益をもっとアピールしなければならないと思っています。内部データの分析だけでは限界があるので、経済効果の算出など外部データを組み合わせてさらに公共交通の有効性を証明していきたいです」と述べました。

編集後記

今回のカンファレンスでは、人口減少時代におけるDXの重要性と、次世代のモビリティに関する多くの洞察が共有されました。特に、基調講演での田端浩氏の「マーケットイン」の行政の実現に向けた提言は、貴重な学びとなりました。
また、トークセッションでは、九州の地域交通における課題とその解決策について、実際の取り組みを交えた具体的な議論が展開されました。特に、MaaSの実現に向けた交通事業者同士の共創の重要性や、データ分析システムを活用した施策の実行についてのお話は、今後の地域交通の未来を考える上で非常に有意義な内容でした。
このカンファレンスを通じて、参加者の皆様が新たな知見を得るとともに、今後のビジネスや地域社会の発展に向けたヒントを掴んでいただけたなら幸いです。
Will Smartは、これからも皆様と共に社会課題の解決に取り組み、「移動の利便性向上」を目指してまいります。
ご参加いただいた皆様、そしてご協力いただいた全ての方々に心より感謝申し上げます。

ミライコラボを運営する株式会社Will Smartでは、交通データの統合・分析・活用をサポートする「交通データ統合分析サービス」を提供しています。ICデータや乗降データなど異なる複数データを直感的にわかりやすく可視化。高度なデータ分析を簡単に実現し、ダイヤ改正 などに様々なデータを活用できます。
データを活用した施策の立案にぜひお役立てください。

交通データ統合分析サービス|Will Smart

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