深刻化する過疎地域の交通問題|解決策と全国の実践事例
過疎地域は、人口減少による担い手不足で公共交通の存続が危ぶまれており、住民の生活の質や移動の利便性に直結する深刻な課題となっています。
本記事では、過疎地域特有の交通課題とその背景を整理するとともに、地域の実情に即した解決策や、実際の成功事例を紹介します。
目次
過疎地域の交通問題を取り巻く現状と課題
国土交通省の調査によると、日本の過疎地域の路線バスの約7割が赤字運営で、今後さらなる路線の廃止や減便が予想されるなど、かつてない危機に直面しています。
地域公共交通の現状と課題
国土交通省の調査によると、過疎地域を含む地方部では急速に人口減少と高齢化が進行しており、地域の公共交通の維持が困難になるなどの深刻な影響を及ぼしています。特に過疎地域のバス事業者は人材の確保が難しいため、深刻な運転手不足に直面しています。
このような状況を背景に、集落が点在する過疎地域では交通空白地帯が急速に拡大しています。国土交通省の定義では、バス停から500m以上、鉄道駅から1km以上離れた地域を交通空白地帯としており、国土交通省の調査によると、公共交通空白地域の面積は36,477 km2(日本の可住地面積の約30%)、人口は7,351千人(日本の人口の5.8%)に及んでいます。デマンド型交通などの新しい取り組みも始まっていますが、1回あたりの利用者が1-2名程度と極めて少なく、燃料費や人件費を運賃収入で賄えない状況が続いています。また、利用者の自宅が広範囲に分散しているため、1便あたりの移動距離が長く、運行効率の改善が難しいといった課題も抱えています。
さらに、過疎地域の自治体では、人口減少に伴う税収低下により財政基盤が脆弱化しています。その中で、1便あたり数千円から1万円程度の運行経費が必要な交通サービスを維持していくことは極めて困難です。このように、利用者の減少と運行経費の負担という二重の課題から、財政的に持続可能な交通システムの構築が急務となっています。
地域社会への影響
過疎地域における交通問題は、地域社会の存続そのものを脅かしています。特に一人暮らしの高齢者が増加する中、最寄りのバス停まで1km以上歩かなければならない状況が、外出機会の著しい減少を招いています。これは単なる不便さの問題ではなく、健康維持や要介護状態の予防にも深刻な影響を及ぼしています。
医療機関や商業施設の統廃合が進む過疎地域では、移動手段の不足が住民の生活と健康に直接的な影響を及ぼしています。国土交通省の「地域交通に関する実態調査(2023年)」によると、過疎地域の住民の約4割が通院や買い物に不便を感じており、特に高齢者世帯では、その割合が6割を超えています。
こうした状況は、地域コミュニティの維持にも深刻な影響を与えています。たとえば、島根県の過疎地域では、公共交通の減少により高齢者の外出機会が著しく制限され、地域活動の担い手不足と相まって、伝統行事や集落機能の維持が困難になっているケースが報告されています。ある集落では、コミュニティの重要な基盤であった地域の寄り合いの開催頻度が、ここ数年で月1回から年数回程度にまで減少。これは、参加者の多くを占める高齢者が、移動手段の確保に苦慮しているためです。
地域交通における多様な取り組み
過疎地域における交通手段の確保に向けて、限られた資源を最大限活用した独自の取り組みが各地で展開されています。特に注目すべきは、地域の実情に応じた柔軟な運営形態と、効率的なサービス提供を可能にするデジタル技術の活用です。
従来の取り組み
地域の実情に応じて、過疎地域特有の課題に対応した交通サービスが展開されています。コミュニティバスは、過疎地域の重要な移動手段として運営されていますが、利用者の減少と運行コストの課題から、小型車両への転換や運行形態の見直しが進んでいます。また、デマンド交通は、集落が点在する過疎地域において、効率的な運行と利用者ニーズへの柔軟な対応を両立する手段として導入が広がっています。
運営面では、過疎地域ならではの「顔の見える関係性」を活かし、地域住民やNPO団体との協力による互助型の輸送サービスが展開されています。これらの取り組みは、高齢者の外出機会の創出と地域コミュニティの維持にも寄与しています。
デジタル技術を活用した新たな可能性
近年では、テクノロジーの進化により、過疎地域における効率的で利便性の高いサービスの提供が可能になっています。スマートフォンアプリを活用した予約システムの導入により、散在する集落の利用者も必要な時に必要な交通手段を確保できるようになりました。ただし、高齢者が多い過疎地域では、電話予約との併用など、デジタルデバイドへの配慮も欠かせません。
車両管理の面でも、IoT技術の活用により大きな進展が見られます。GPSによる位置情報の把握や、車両状態の遠隔モニタリングにより、限られた車両リソースを最大限に活用することが可能になっています。
さらに、利用データの分析と活用により、過疎地域特有の需要パターンの把握や運行計画の最適化も実現できます。これにより、通院や買い物など、地域の生活必需的なニーズに合わせたきめ細かなサービス提供が可能になっています。
持続可能な運営モデルの構築
過疎地域の交通の持続可能性を高めるためには、地域の特性や限られた資源を最大限活用した運営モデルの構築が重要です。例えば、廃校施設の車両基地としての活用や、定年退職者の運転手としての活用など、過疎地域の実情に即した工夫が求められます。
運営コストの最適化も必須です。デジタル技術の活用により、効率的な配車や人員配置が可能になり、財政基盤の脆弱な過疎地域でも、限られた予算内でより充実したサービスを提供できるようになっています。
また、地域特性に応じた柔軟なサービス設計も欠かせません。医療機関への通院や買い物支援など、過疎地域の生活を支える機能を重視したサービス設計を行い、地域の実情に合わせた対応が求められます。
先進的な取り組み事例
ここでは、過疎地域における具体的な取り組み事例を紹介します。
地域資源を活用したスマート交通
島根県飯南町では、自動運転サービスを活用した地域の公共交通やまちづくりのあり方について検討しています。道の駅「赤来高原」に予約受付カウンターを設置し、利用者登録・予約受付やその情報を管理システムを活用して運行管理を行っています。
また、下赤名自治振興会館には運行管理センターを設置し、車両の運行状況を車載機のカメラや位置情報でモニタリングしています。
(出典:長期実証実験結果について|国土交通省ウェブサイト)
次世代モビリティサービスの展開
和歌山県すさみ町では、2023年8月1日から「すさみトゥクトゥクレンタルサービス」を開始しました。JR周参見駅にEVトゥクトゥク車両を2台配備し、レンタルサービスを行っています。
このサービスは、環境にやさしく、簡単に移動できる新たなビークルを提供し、すさみ町の歴史、雄大な自然、おいしい料理などをのんびり散歩気分で各観光スポットを巡る旅を楽しんでもらうことを目的としています。
(出典:「すさみトゥクトゥクレンタルサービス」を開始します。)
官民連携による新しい取り組み
徳島県三好市では、MONET Technologies株式会社、三好市、およびトヨタカローラ徳島株式会社が2024年5月30日に包括連携協定を締結しました。この協定に先立ち、三好市が2024年4月1日に運行を開始したデマンド型乗合タクシー「三好市 山城乗合タクシー」向けに、MONETの配車システムや予約アプリ、運行実績を可視化するデータレポートサービスなどを提供しています。この取り組みは、三好市内の公共交通空白地域の解消を図るとともに、高齢者をはじめ多くの方が安心して移動できる環境づくりを目指しています。
これらの事例に共通するのは、過疎地域特有の課題に対して、デジタル技術の活用と地域の実情に即したサービスの提供を組み合わせている点です。また、官民連携や地域資源の活用など、持続可能な運営体制の構築を目指していることも特徴です。
(出典:MONET、徳島県三好市でのモビリティサービスの普及に向けて包括連携協定を締結)
まとめ
過疎地域における交通問題の解決には、地域特性に応じたきめ細かな対応が必要です。特に注目すべきは、IoTやデジタル技術を活用した新しいモビリティサービスの可能性です。交通における課題解決で「住民の暮らしをより良くすること」を目標に、最適なデジタルの活用方法を検討することが大切です。
Will Smartでは、「移動を支えるテクノロジー企業」として、地域交通の維持や再編のためのデータ分析基盤の構築やモビリティ関連システムの開発を行っています。地域交通のリデザインや関連システムの構築にお悩みの方は、ぜひWill Smartのサービスページをご覧ください。
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