全国で注目が集まる「EBPM」とは?その背景を事例と解説!
「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)」による取り組みは、内閣府や厚生労働省などの行政機関で推進されている手法で、日本でも徐々に活用されはじめています。
欧米諸国に比べると日本は統計や業務データなどが政策立案に活かされておらず、見聞きした事例や少ない経験に頼っているというのが現状です。
しかし、少子高齢化の進行や厳しい財政状況などの課題を抱えているなかで限られた資源を有効に活用し、国民により信頼される行政を展開するために日本社会でもEBPMの必要性が高まっています。
本記事ではEBPMが求められる背景や日本国内で行われているEBPMの活用事例について解説していきます。
目次
EBPMとは?
EBPMとは「Evidence・Based・Policy・Making」の略称で、証拠に基づく政策立案という意味です。
内閣官房行政改革推進本部を中心に構成された「EBPM課題検討ワーキンググループ」(以下、ワーキンググループ)はEBPMについて、「政策目的を明確化させ、データなどの根拠(エビデンス)に裏付けされた政策手段によって政策の枠組みを明確にする取り組み」という考え方を示しています。
また、ワーキンググループではEBPM自体を目的とせず、政策の立案・評価・見直しにおいてEBPMの考え方に基づいた取り組みが自然と行われるような将来像を目指していくべきとしています。
国内でEBPMが求められる背景とその課題
日本国内では平成29年度からEBPM推進委員会が開催されるなど、EBPMの推進に向けた整備が進められています。
その背景としては、これまで行われてきた政策は過去の慣行によるものが多く、実効性に欠けるものが多いことや少子高齢化や財政の悪化が進んでおり、限られた資源を効果的に利用して政策を立案していく必要があることなどが挙げられます。また、欧米諸国では比較的エビデンスを重視した政策立案が進んでいるため、EBPMを取り入れた政策立案が世界的な流れとなりつつあります。
しかし、EBPMの考え方に基づいて行われた取り組みはまだ限定的で、EBPMの考え方の普及を進めていく必要があります。また、政府各府省の担当者がEBPMについて負担感を感じている側面もあり、EBPMが政策立案に役立つという実感を担当職員が得られるように人材の育成に取り組んでいかなければなりません。
EBPMの手法を取り入れた国内の事例
EBPMに必要なデータを整備している事例や、実際にエビデンスに基づいた政策を行っている事例について解説します。
「RESAS」と「V-RESAS」の運用(内閣府)
RESAS(地域経済分析システム)とは、「Regional Economy Society Analyzing System」の略で、内閣府が運用しているビッグデータを活用した経済分析サイトです。
地域経済に関する官民の様々なデータを、地図やグラフ等で分かりやすく可視化しており、各地域が自らの強みや弱みを分析して解決策を検討することで、EBPMをさらに促進させることを目的としています。
人口やまちづくり、観光など様々な観点から可視化されたデータを確認することができ、例えばどの都道府県や市区町村からの流入が多いかや、外国人観光客の訪問先と消費額を国別に比較することなどが可能です。
V-RESASはRESASの中でも特に経済の状況を可視化することに特化したシステムで、新型コロナウイルス感染症が地域経済に与える情報を可視化し、金融機関や中小企業の支援をサポートすることを目的としています。
全国の自治体で地場産業の支援や、まちづくりの施策などにデータが活用されています。
デジタル予算書(新潟県柏崎市)
新潟県柏崎市では、市が行っている事業の内容や予算を、民間企業の協力のもと「デジタル予算書」として構築し、ホームページ上に公開しています。これまでの予算書は紙で作成されており、厚さ3センチ、重さは1キログラムもありました。市民には予算書のPDFをホームページで公開していましたが、概要しか記載されていないため、どんな事業があるのか知ることができませんでした。
デジタル予算書はこれらの課題を解決するためのもので、事業ごとの金額や内容、評価、報告などがデータベース化されています。この予算書は誰でも内容を確認することができるので、データを活用した取り組みが進むことが期待されています。
医療費適正化施策(広島県呉市)
呉市は官民連携のもと、診療報酬明細書(レセプトデータ)を基に医療費の削減に取り組んでいます。民間企業のICT技術により本来は請求書としての用途しかないレセプトデータから傷病名ごとの正確な医療費が算出できるようになりました。
そのデータを活用して同月内に複数の医療機関で同じ薬を処方してもらっている人や同じ医療機関に月15回以上通っている人などを訪問し、適正な医療を受けられるように保健指導をしています。
また、薬をジェネリックに変えることで医療費が安くなる人に差額を通知した結果、10億円以上の医療費削減の効果が出ており、全国の自治体から注目されています。
葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト(神奈川県葉山町)
葉山町ではごみ集積場の不適切な利用が課題となっていました。その課題解決としてEBPMの手法を活用しています。
ごみ集積場を適切に使ってもらうための政策を検討するにあたり、町内のごみ集積場をモニタリングし、なぜ不適切な利用が発生しているのか分析しました。分析の結果、収集後の後出しや分別、排出場所の間違いなどが主な原因であるという仮説を立て、チラシのポスティングや収集終了の看板の掲出などの対策を打ち出しました。
これらの対策を一部のごみ集積場で試したところ効果を発揮したので、正式に政策に反映し、町内会がすぐに使えるようにチラシを提供したり、収集終了の看板をすべてのごみ集積場に設置しました。
官民が連携し、データを活用できる環境を作る
実際の事例からもわかるように、EBPMの手法を政策立案に取り入れるためには、まずデータを集めて、分析できる状態に整備する必要があるということが分かります。
柏崎市や呉市はデータの整備や構築などを民間企業に委託しており、自治体だけでは時間がかかってしまうデータの整備や政策に必要な人員の確保について、官民が連携して取り組むことがEBPMの活用を促進させる要因だと考えられます。
多くの自治体が人口の減少や財政の悪化が課題となっており、予算を効果的な政策に配分していかなければなりません。EBPMを活用した政策がどんな効果を出しているか、全国の自治体が共有し実行していく必要があるでしょう。
【参考サイト】
①RESAS – 地域経済分析システム(https://resas.go.jp/#/41/41201)
②V-RESAS(https://v-resas.go.jp/)
③柏崎市『柏崎市デジタル予算書』(https://www.city.kashiwazaki.lg.jp/shiseijoho/yosan_kessan_zaisei/24645.html)
④総務省『ICTを用いた広島県呉市における「データヘルス」の取り組み支援』(https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/top/local_support/ict/jirei/2017_074.html)
⑤葉山町きれいな資源ステーション協働プロジェクト(https://www.pref.kanagawa.jp/documents/44494/2-4kanagawaebpmforumhayama.pdf)
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