地方創生DXの進め方｜失敗しない推進のための実践的メソッドと成功事例

　地方創生DXは、自治体がデジタル技術を活用して地域の課題を解決し、新たな価値を提供するための戦略的な取り組みです。しかし、中には「何から始めればいいのか」「どのように進めていけばいいのか」という悩みを抱えている自治体もあります。本記事では、地方創生DXの意義から、具体的な進め方、そして成功のための重要なポイントまでを、実践的な視点で解説します。これから地方創生DXに取り組む自治体の方々は、ぜひ参考にしてください。

自治体におけるDX推進の目的と意義

多くの自治体がDX推進に取り組んでいますが、その進め方や成果には地域差もあるようです。ここで改めて地方創生DXの真の目的と意義を理解することから始めましょう。
多くの自治体がDX推進に取り組んでいます。この機会に、その本質的な意義を改めて確認し、より効果的な施策につなげていきましょう。

なぜ今、地方創生DXなのか

地方自治体は現在、かつてない危機に直面しています。人口減少と少子高齢化の加速、若年層の流出、地域経済の縮小など、複雑な課題が山積しています。これらの課題に対し、従来型の取り組みだけでは十分な解決が難しくなってきています。
デジタル技術の進化は、これらの課題に対する新たなアプローチを可能にしました。データに基づく政策立案、行政サービスのオンライン化、地域資源のデジタル活用など、テクノロジーは地域課題を解決する強力なツールとなっています。
特に新型コロナウイルス感染症を契機に行政サービスのデジタル化への期待は急速に高まり、テレワークの普及やデジタル化の加速は地方移住への関心を高め、新たな地方創生の可能性を開きました。
しかし、地方創生DXにおいて重要なのは、デジタル技術を活用して地域の課題を解決し、新たな価値を創造することです。行政サービスの効率化だけでなく、地域経済の活性化、市民生活の質の向上、さらには新たな産業や雇用の創出まで、包括的な地域の変革を目指すものです。

地方創生DXで実現できること

地方創生DXがもたらす効果は、大きく3つの分野に分けられます。

まずは、「行政サービスの変革」です。デジタル技術の活用により、24時間365日対応可能なオンラインサービスの提供や、AIによる効率的な問い合わせ対応が実現します。これにより、市民の利便性が向上するだけでなく、職員の業務効率化にもつながります。

2つ目は、「データ駆動型の政策立案」の実現です。地域の様々なデータを収集・分析することで、より効果的な施策の立案が可能になります。例えば、人流データを活用した公共交通の最適化や、市民の行動データに基づく効果的な情報発信など、客観的な根拠に基づく政策決定が可能になります。

3つ目は、「地域の新たな価値創造」です。デジタル技術は、地域資源の新しい活用方法を生み出します。観光資源のデジタル活用、地域産品のEコマース展開、農業のスマート化など、従来の地域資源に新たな付加価値を加えることができます。
これらの取り組みは、単独ではなく、相互に連携することで大きな相乗効果を生み出します。例えば、行政サービスのデジタル化で得られたデータが新たな政策立案に活用され、それが地域の価値創造につながるといった好循環を生み出すことが可能になります。

地方創生DXの実践事例

地方創生DXの取り組みは、各自治体の規模や特性によって最適なアプローチが異なります。ここでは、特徴的なアプローチで成果を上げている3つの自治体の事例を紹介します。それぞれの事例から、成功のポイントと実践的な示唆を読み取ることができます。

総合的推進モデル：会津若松市(福島県)

会津若松市（人口約11.4万人）は、ICTに特化した会津大学の強みを活かし、データ連携基盤を核とした包括的な地方創生DXを展開しています。同市の取り組みは、デジタル田園都市国家構想推進交付金（TYPE3）に採択されるなど、全国的なモデルケースとして注目を集めています。

特徴的な推進体制
同市の成功を支える最大の特徴は、「産学官」の有機的な連携体制です。市・会津大学・AiCTコンソーシアムの3者が基本協定を締結し、それぞれの強みを活かした役割分担を明確にしています。特に、ICTオフィス「スマートシティ AiCT」には36社が入居し、地域のDX推進の実働部隊として機能しています。

データ連携基盤を核とした展開
「会津若松＋」と呼ばれるデータ連携基盤は、市民のオプトインに基づくパーソナライズされたサービス提供を可能にしています。年間ユニークユーザー数約30万人、ID登録者数約2万人という実績は、基礎自治体のデジタルプラットフォームとしては特筆すべき規模です。

具体的な実装事例
会津若松市の地方創生DXは、市民生活に直接的な効果をもたらす成果を着実に生み出しています。例えば農業分野では、養液土耕システムやドローンを活用したスマートアグリを導入した結果、農家の労働時間の削減と収益性の向上を実現しました。観光分野では、デジタルDMOによって訪問者の属性に応じた情報提供を可能にし、インバウンド観光客の受け入れ体制を強化しています。
さらに行政サービスでは、LINEとAIチャットボットを組み合わせた問い合わせ対応や、除雪車位置情報システムなど、市民の日常生活の利便性向上につながるデジタル化を着実に進めています。

コミュニケーション変革モデル：佐久市(長野県)

佐久市（人口約9.8万人）は、行政と市民、そして移住希望者とのコミュニケーションの在り方を根本から見直すことで、効果的な地方創生DXを実現しています。特に、民間のコミュニケーションツールを活用した新しい関係づくりは、全国の自治体から注目を集めています。

Slackを活用した「リモート市役所」
同市は、ビジネスコミュニケーションツール「Slack」を活用した「リモート市役所」を展開しています。これは自治体として初めての試みであり、移住希望者と市民、行政が気軽に情報交換できるオンラインサロンとして機能しています。立ち上げから1年で参加者数が1,600名を超え、実際の移住にもつながっています。

データに基づく改善サイクル
リモート市役所の運営では、週間アクティブメンバー数などの具体的なKPIを設定し、PDCAサイクルによる継続的な改善を実施し、さらに参加者からの声を施策に反映する仕組みも構築しています。この取り組みは、PRアワード2021ブロンズ賞、シティプロモーションアワード2021金賞・未来創造賞を受賞するなど、外部からも高い評価を得ています。

デジタルを活用した移住支援
移住希望者の声から生まれた「Shijuly」は、試住支援と補助金に関する情報を一元的に提供するサービスです。オンラインでの情報提供から実際の移住体験まで、シームレスなサポートを実現しています。YouTubeでの体験者の様子の発信など、デジタルメディアを効果的に活用した情報発信も特徴です。

未来都市創造モデル：札幌市(北海道)

札幌市（人口約195万人）は、Society 5.0を見据えた次世代型都市の実現を目指し、大規模都市ならではの包括的な地方創生DXを展開しています。人口減少・高齢化という課題に対し、デジタル技術を活用した産業振興と魅力的な都市づくりを両輪で進めているのが特徴です。

データ駆動型の政策立案
市長を本部長とする「札幌市人口減少対策推進本部」を設置し、組織横断的なデータ活用を推進しました。特に、20代の若年層の道外転出という課題に対して、データに基づく効果的な施策立案を実現しています。人口動態や産業構造の分析により、具体的な数値目標を設定し、その達成に向けたアプローチを明確化しています。

次世代型産業の育成
Society 5.0の実現に向け、次世代型産業の創業・開発支援を積極的に展開しています。地元中小企業のDX推進支援と、新規産業の創出を並行して進めることで、若者に魅力的な雇用機会の創出を目指しています。特に、観光やMICE分野でのデジタル活用は、都市の魅力向上と産業振興の両面で成果を上げています。

包括的な推進体制
大規模都市の強みを活かし、産学官連携による重層的な推進体制を構築しました。北海道や周辺市町村との広域連携も積極的に進め、より大きな経済圏でのデジタル化を推進しています。市民・企業・行政が一体となった「オール札幌」での取り組みにより、持続可能な推進体制を実現しています。

これらの事例から次章では、地方創生DXを成功に導くための実践ステップについて解説していきます。

地方創生DX推進の実践ステップ

成功事例を踏まえ、具体的にどのように進めていけばよいのか、実践的なステップを解説します。

Step1：準備と計画

地方創生DXにおいて重要なのは、自治体の現状と課題を正確に把握することです。人口動態、産業構造、住民ニーズなど、データに基づく現状分析を行い、地域固有の課題を明確にしていきます。
その上で、デジタル技術による解決可能性を検討します。必ずしも大規模な投資から始める必要はありません。住民ニーズが高く、比較的実現しやすい施策から着手し、成功体験を積み重ねていくことが重要です。

Step2：体制づくりと人材育成

地方創生DXを持続的に推進するには、適切な体制づくりと人材育成が不可欠です。まずは、庁内の推進体制を整備します。デジタル担当部署の設置だけでなく、各部署との連携体制を構築し、横断的な取り組みを可能にすることが重要です。
外部との連携体制も重要なポイントです。地域の大学や企業、さらにはデジタル技術に詳しい人材など、多様な主体との協力関係を築きます。ただし、外部依存ではなく、庁内でデジタル人材を育成する視点も必要です。研修制度の整備や、実践的な学びの機会を設けることで、職員のデジタルリテラシー向上を図ります。

Step3：実行とPDCA

デジタル化の取り組みは、計画通りに進まないことも少なくありません。そのため、小規模な事業からスタートし、効果検証を行いながら段階的に展開することが賢明です。
効果測定においては、具体的な指標を設定することが重要です。利用者数やアクセス数といった定量的な指標に加え、利用者満足度などの定性的な評価も組み合わせます。これらの指標をもとに、定期的に取り組みを評価し、必要に応じて改善を加えていきます。
特に重要なのは、市民からの意見を収集することです。デジタルサービスの改善点や新たなニーズを積極的に収集し、より使いやすいサービスへと進化させることが、持続的な成功につながります。

地方創生DX成功のポイント

地方創生DXを進める上で、特に注意すべきポイントについて解説します。

よくある失敗パターンと対策

地方創生DXでよく見られる失敗は、デジタル化そのものが目的化してしまうことです。重要なのは、デジタル技術はあくまでも手段であり、地域課題の解決や住民サービスの向上が本来の目的だということです。
また、住民目線の欠如も大きな課題となります。いくら先進的なシステムを導入しても、実際の利用者のニーズに合っていなければ、活用されないままになってしまいます。設計段階から住民の意見を取り入れ、使いやすさを重視することが重要です。

成功のための重要な視点

デジタル化の成功には、段階的な推進が欠かせません。一度にすべてを変えるのではなく、優先順位をつけて着実に進めることが重要です。また、職員の理解と協力を得るため、庁内での丁寧な対話と情報共有も必要です。
さらに、持続可能な運営モデルの構築も重要です。初期費用だけでなく、運用保守コストや将来的なアップデートまでを見据えた計画が必要です。また、デジタル化による業務効率化で生まれた余力を、より価値の高い住民サービスの提供に振り向けていく視点も大切です。

まとめ：地方創生DXを成功に導くために

地方創生DXは、正しい理解と戦略的なアプローチがあれば、必ず成果を上げることができます。重要なのは、地域の実情に合わせた着実な一歩を踏み出すことです。
デジタル技術は急速に進化していますが、その本質は「住民の暮らしをより良くすること」にあります。当面の課題から着手し、成果を着実に積み重ねることで、より大きな変革へと発展させることが可能です。このような段階的なアプローチが、持続可能な地方創生の実現につながります。