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スマート農業の専門家インタビュー「ぶどう栽培におけるAI活用」

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様々な分野で活躍するAI技術。
AIなどのIT技術が関係しないように思われがちな農業分野でもAIの活躍に注目が集まっています。
今回は、山梨県で行われているスマート農業の実証実験を紹介します。

山梨県は、ぶどうの生産が盛んで栽培面積、生産量ともに日本一です。

山梨県のぶどう畑

しかし、2012年から収穫量が右肩下がりで減っています。その理由のひとつにあげられているのが、ぶどうを作る生産者の減少です。
そこで、経験の少ない農家の方でもぶどうの栽培ができるよう、3年前から山梨大学の研究者と県内の農業法人がタッグを組み、ぶどうの栽培をAIを使って効率化する研究を始め、令和2年度からは農林水産省事業「スマート農業実証プロジェクト(ローカル5G)」「高品質シャインマスカット生産のための匠の技の『見える化』技術の開発・実証」が実施されています。

ミライコラボでは、この実験に参画している山梨大学工学部コンピュータ理工学科の茅 暁陽(マオ・シャオヤン)教授にインタビューしました。
茅教授の専門は、AIによる画像処理やスマート農業の研究です。

山梨大学工学部コンピュータ理工学科の茅 暁陽(マオ・シャオヤン)教授

今回の実証実験の内容について、教えていただけますでしょうか。
茅教授:今回の実証実験では、ぶどう栽培工程で最も重要な、若いぶどうの粒を間引く「摘粒」という作業を、AIとスマートグラスを使って誰でも簡単にできるようにします。
この作業は、切る粒を間違えてしまうと、房の形が悪くなり、ぶどうの価値が下がってしまうので、一定の経験を有する農家さんでも難しく、かなりの経験と熟練の技が必要になります。

若いぶどうの房


一般的な摘粒の作業

ではその摘粒の作業はどのように行われるんでしょうか?
茅教授:一般的には、若いぶどうの房を見て、成長後の様子を予想して、生育の悪い粒を取り除いたり、それぞれの粒と粒の間に十分な成長スペースを作ったりして、余分な粒を減らします。農家の規模にもよりますが、繫忙期の3週間ほどの期間に3000~4000房も作業します。
今回の実証実験では、この作業を誰でも効率よくできように、ベテラン農家のノウハウをAIで学習し、スマートグラスに房に含まれる粒の数と摘果すべき粒を可視化する技術を開発しました。
実証実験では、ローカル5Gを使用することで、スマートグラスのカメラで撮影した画像をサーバーに送り、サーバーで解析を行った後、作業支援用の画像をスマートグラスに表示させることが、ほぼリアルタイムでできます。AIが不要と選んだ粒は赤く表示されますので、生産者は何も考えずその粒を切っていくだけで摘粒の作業ができます。いわゆる熟練の技である、若い房を見て、成長過程と出荷時の房を予測する必要がなくなったので、経験の少ない方でもスムーズに作業できるようになります。

スマートグラスを使った摘粒の作業


スマートグラス越しに見た摘粒をサポートする映像

実証実験で大変だったところを教えてください。
茅教授:深層学習技術を用いているので、学習データを集めることに苦労しました。ぶどうだけではなく、農業全般に言えることですが、季節的なものなので、ある年にデータ取りを失敗してしまうと、翌年まで作業ができなくなりますので、とても慎重に作業を行いました。

今回の実証実験での結果を教えてください。
茅教授:まだ分析途中ではありますが、AIの予測結果は熟練農家と80%以上一致しています。農家の方からは、メガネタイプのデバイスは両手が自由に使えるので、スマートグラスに慣れれば、大幅な作業時間の短縮についても期待ができると伺いました。

実証実験の様子

今後の展開について教えてください。
茅教授:今回の実証実験では、農業従事者の方からは概ね前向きな評価をいただきました。しかし、実用化のことを考えると、現在のスマートグラスは少し価格が高いため、もう一度必要な機能を精査して、農家の方にとってより手が届きやすいデバイスも検討していきたいと考えております。
また、現在、広島県のスマート農業実証実験にも参加しており、そこではAIによる収穫後のぶどうの等級判定技術の開発を行っています。

まとめ

全国の農家では、人口減少と高齢化に伴い、生産者が減少しています。今後も厳しい状況が続くと予想されていますが、その中で期待されるのが、AIを使ったスマート農業です。今回ご紹介した実証実験はぶどうの摘粒でしたが、今後も様々な作業における熟練の技術を、AIによって効率化していくことで、生産性の向上を期待したいです。

【取材先概要】
山梨大学工学部コンピュータ理工学科
茅 暁陽(マオ・シャオヤン)教授
■所在地:山梨県甲府市武田四丁目3-11

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