「ミライの種」四国電力 七宮執行役員事業開発室新規事業部長インタビュー 前編
各分野における経営のプロフェッショナルたちが考える未来への戦略、未来への投資、そして未来像とは?過去から現在、そして未来の花咲くカギとなる「種」とはどんな姿なのか?その「歩み」を辿りながら「ミライの種」に迫ります。
第2回目となる「ミライの種」、今回お話をお伺いするのは、四国電力の執行役員事業開発室新規事業部長 七宮(しちく)さんです。
四国を長らく見つめ、四国とともに歩みながらも、坂本龍馬のように世界を見据えたその目に映るミライの姿をお話しいただきます。
「創出のミライの種」
2019年6月に事業開発室新規事業部を構え、様々な新規事業に挑戦する四国電力。中でも、例えば、AI・IoT・ブロックチェーンといった新しい技術への取り組みはどのように進められているのでしょうか。
「2018年度に、VPP(※1)をはじめとした革新的な技術動向を調査・研究する2人のチームを作りました。当時、弊社は、他の電力会社と比べてこれらの分野の調査・研究が出遅れており、急速に進めることが求められていました。しかしながら、始めてみると勉強することが山ほどあり、さすがに2人じゃ圧倒的に足りないということで、社内のいろいろな部門から人に集まってもらい、現在は7人体制で取り組んでいます。2019年度からは関西電力さんのプロジェクトに参加させていただき、日々情報・ノウハウを得ながら実証実験などを行っている状況です」
当時、他の電力会社さんはどのような取り組みを進められていたのですか。
「既に大手メーカー・自動車会社・通信会社とともにチームを組んで、実証実験を進めていました。さすがにこれはまずいなと思いましたね。その後、関西電力さんのプロジェクトに参画させていただきましたが、それをきっかけにたくさんのご縁があり、加入したメリットは大きかったと考えています」
将来的には、どのような形でビジネスの展望をお考えでしょうか。
「VPP、あるいはブロックチェーンなどもそうですが、今後、新しい技術がどのように展開されるかを読むのはとても難しい。欧米ではすでにビジネスモデルが出来上がりつつありますが、日本ではまだまだ未知数です。だから現時点で明確に展望を持っているわけではなく、世の中の変化を見ながら弊社としてのかかわり方を考えていければいいと思っています。ただ、VPPを構成する要素の一つでもありますが、電気自動車(EV)は今後の重要な一つのテーマとして注目しており、自動車会社さんとの提携も考えている状況です」
電気の需要は、今後減少傾向にあると言われていますが、EVがそれを補うような形になるとお考えですか。
「確かに、お客さまの節電志向は強まっていますし、省エネ機器もどんどん開発されている。こうしたことから、電気の消費量は今後、減っていくとの予想もあります。そのような中で、EVが普及すれば確かにその分の電気の使用量が増えることは間違いない。しかしながら、節電や省エネで減少する分の電力消費量をカバーできるかと言えば、決してそのようなことはないと考えています。逆に、EVは単なる移動手段、モビリティーとしてではなく、蓄電池としての役割をもった、新たな『財』になるのではないかと考えています」
EVに関しては、超小型電気自動車の分野ですでに出資されていると伺いました。
「はい、これもあるご縁で株式会社FOMM様という新たな試みをされている会社と出会い、現在3億円ほど出資させていただいています。FOMM様は今後の市場拡大が見込まれる超小型EVを開発・生産するベンチャー企業ですが、EVに水害に巻き込まれても故障しにくい機能を搭載し、洪水が多いタイをメインターゲットに積極的に展開しています。その他にも様々な取り組みを進められていて、鶴巻社長の経営者としての夢にも魅力を感じました。弊社以外にもいろいろな分野の企業が出資していて、どの社も電気自動車に注目しているのだと実感しました」
今後、ベンチャー出資については、どのように考えられていますか。
「弊社は、ベンチャーキャピタルではありません。そのため、弊社が出資する目的や狙いは決して財務リターンだけを狙ったものではなく、弊社と出資した会社も交えコラボレーションできるかどうかということに重きを置いています。更にせっかく出資するのであれば、共同出資会社と何らかのアライアンスができないかも考える必要があると思います。出資から関係を作ることが、将来のビジネスに発展する可能性もある。ですから、投資の担当者にはいつも、出資先や共同出資会社と『できる限り濃い関係を作ってくれ』と指示しています。本業より儲けられるだけの事業が見つかるか、見つけた後で育てられるかを常に自問しつつも、本業にこだわらず、新しい事業に対し柔軟に取り組むことが重要であると考えています」
「四国のミライの種」
一方、四国電力の事業基盤である「四国」の中での取り組みも重要かと思われます。現在四国での課題とするところは何だと思われますか
「四国にとっての大きな課題は、やはり少子高齢化でしょう。大きなトレンドは変えることができませんが、問題なのは、四国の人間は昔から、坂本龍馬にせよ岩崎弥太郎にせよ、東京や大阪といった都会で成功してそのまま帰ってこない(笑)。香川・愛媛の都市部についてはまだ良いのですが、高知は昔から人材供給県としての性質が強い。将来的には四国の人口が300万人を切ってしまうとも言われています。今後、四国の活力を維持していくために若い人にどうやって四国に残ってもらうか、また、どうやって四国外から四国に移住してもらうかはとても大きな課題でしょう」
四国の中では高知は比較的、第一次産業が盛んな地域という印象があります。
「そうですね。高知の東部では、ピーマン・キュウリ・トマトといった野菜作りが盛んですが、これからは農業の担い手が急激に減少するとみられています。お米もそうです。私自身、実家が農家でした。会長の佐伯も愛媛の山間部の農家の子です。そして、家族や親せき、地元の友人が集まれば、必ず『家の畑が・・・、田んぼが・・・』といった話になる。地域とともに生き、地域とともに歩み、地域とともに栄えることを企業理念としている弊社が何らかの形で農業に携わるべきであるという考えは、ずいぶんと前からありました。それを、2年前に具体化しよう、ということで農業ビジネスに参入することを決めました。でも、電力会社ですので、当然、農業に関するノウハウがまったくない(笑)。本当にイチからのスタートだったので、まずは幅広く情報収集を進めていき、『イチゴ』にターゲットを絞りました。昨今、農業にも多くの最先端技術が用いられていますが、中でもLEDの光を当てて作物が病気にならないようにする技術、生産するにあたって適度な酸素・温度・湿度・光量を調整する機器など、様々な新技術を活用されている熱心な農家さんと出会うことができました。その農家さんは東京・銀座千疋屋さんにイチゴを卸しており、その流れから青果流通事業者の株式会社テンフィールドさんともつながり、農家・銀座千疋屋・株式会社テンフィールド・四国電力とで協業し、あぐりぼん株式会社を立ち上げました」
あぐりぼん、すごく耳に残る!面白いですね。
「『あぐりぼん』の社名には、あぐり=agriculture、りぼん=rebornをかけあわせ、高級フルーツをリボンで結ぶイメージも込めました。ロゴも化粧品会社みたいな爽やかなイメージに仕上がっています。やってることはイチゴ作りだから泥臭いんですけどね(笑)」
将来的には、どのように発展させていきたいとお考えですか。
「やはり、販路をしっかりと作っていくことが最重要だと思っています。出来上がったものの全てが東京の高級スーパーで売れるかと言えば、残念ながらそういうことはない。だから、ケーキ屋さん・お菓子屋さん・フルーツパーラーなんかでどんどん食べてもらえるようにしたいですね。その他にも、加工品として独自に売り出すことも大切です。ジャムやジュースなどという方法もあるし、海外で現地生産して販売するという方法も考えられる。もちろん、AI・IoT技術を取り入れた農業のスマート化は避けて通れないと思っています。アグリビジネスについてもやはり、走りながら考える、うまくいかなくても工夫して何とか乗り越えていく、そして、最終的に『これだ!』というビジネスモデルができればと考えています」
最近では、四国内のツーリズムについても新たな試みをお考えと伺いました。
「四国でもインバウンドは増加傾向にあります。特にアジア圏からのお客さまが多い。香川県でも高松空港にアジア圏のLCCが多く発着しています。今後は、四国にお越しいただいた方に喜んでいただけるおもてなしができるかどうかが課題だと思います。特に2019年は、瀬戸内国際芸術祭(※2)を目的とする方が多いですが、更なる付加価値として来訪者をもてなせるよう、弊社でも協賛やスタッフのボランティア派遣を積極的に行っています。社長の長井もボランティアとして参加しました」
もてなす側として、四国が今後積極的に取り組むべきなのはどのようなことだとお考えでしょうか。
「瀬戸内国際芸術祭は面白い。面白いからたくさんの方に来ていただける。一方で、交通機関・宿泊所・レストランの整備はまだまだです。他にも、外国からのお客様を受け入れる体制が整っていないところが多い。例えば、瀬戸内国際芸術祭会場に、フェリーで移動するとしても、『フェリーが出航できない』、『出発時間が遅れる』、などといった情報を一気に多くの方へお知らせする方法が整っていません。ボランティアがフェリー乗り場で一人一人にご説明している状況です。やはり、多くの人が確認できる媒体があるのと無いとでは違います。あのような場所に、Will Smartのデジタルサイネージがあれば、日本語・英語・韓国語など多言語で『何分遅れてます』などのお知らせをすることができますよね」
外国人向けの観光インフラがまだまだ不足しているということですね。
「そうですね。インバウンドが急増してきたのが最近なので、仕方ないと言えばそれまでですが、細やかなおもてなしが外国人観光客には喜んでいただけるし、リピーター獲得にも繋がると思います。近年は、SNSによって拡散することで一気に火がつくこともある。基本的な部分や行程に支障をきたしてしまう部分は、早めにしっかり対応しておいた方がいい」
将来的に、宿泊業への進出もお考えですか。
「選択肢の中にはありますよ。弊社が民宿・ホテルを作ることができるかどうかというのはもちろん検討しなければなりませんが、私は、もっと大事なことがあると思っています。海外には昼夜問わず楽しめる観光スポットがありますよね。例えば、シンガポール・マリーナベイサンズの噴水ショーや、植物園のイルミネーション。しかし、残念ながら四国には夜の時間に楽しめるエンタテインメントは無いに等しい。今後、四国でも昼も夜も楽しめる魅力的な観光スポット、SNSで言えば『インスタ映え』するといったモノやコトを充実させていくことが大事だと思います」
今後、四国のミライをどのように想像されていますか?
「今まで言ってきたことを正反対のことを言うようですが、実は四国には、注目されていないだけでたくさんの観光資源があります。それを四国全体で発掘して、磨いていくことが、多くのお客さまを呼び込むことにつながります。その為にも四国が一つにまとまることが必要です。事業者間の連携の問題や観光公害の問題に対してどうやって対処するか、そして、四国のすばらしさをどうやってお知らせしていくのか、それが目下の課題です。それができれば、日本に、そして世界に誇れる四国を作っていけるのではないかと思っています」
後編では、「育成のミライの種」「共創のミライの種」について迫ります。ぜひ合わせてお読みください。
(後編は▼こちら)
七宮 浩
早稲田大学法学部卒業後、1984年四国電力株式会社入社。その後、2011年高知支店総務部長に就任。2013年には総合企画室経営企画部経営体質強化プロジェクトチーム副統括部長に抜擢される。以降、総合企画室経営企画部経営改革プロジェクトチーム副統括部長、総合企画室経営企画部経営改革プロジェクトチーム統括部長、総合企画室事業企画部長、海外事業推進室長を経て、2018年には執行役員に就任。現在は執行役員として四国電力が2019年に新たに構えた事業開発室新規事業部の部長を務めている。
(※1)Virtual Power Plant。点在する小規模な再エネ発電や蓄電池、燃料電池等の設備と、電力の需要を管理するネットワーク・システムをまとめて制御すること。複数の小規模発電設備やシステム等を、あたかも1つの発電所のようにまとめて機能させることから「仮想発電所」と呼ばれる。
(※2)3年に1度、瀬戸内海の12の島と2つの港を舞台に開催される現代アートの祭典。本年は4回目の開催であり、過去3回の開催では100万人前後の来場者を集めている。
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