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「ミライの種」中央大学大学院戦略経営研究科 中村博教授インタビュー 前編

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各分野における経営のプロフェッショナルたちが考える未来への戦略、未来への投資、そして未来像とは?過去から現在、そして未来の花咲くカギとなる「種」とはどんな姿なのか?その「歩み」を辿りながら「ミライの種」に迫ります。

第7回となる「ミライの種」。今回、お話を伺うのは、中央大学大学院 戦略経営研究科 教授の中村 博(なかむら ひろし)さんです。
中村教授に日本の小売業とメーカーのデジタライゼーションについて現状の課題から、未来の展望について、お話しいただきました。

小売・流通業界の現状

日本の小売業の現在の状況について、教えていただけますでしょうか。

「今の日本の小売業は第2次流通革命に近いと思います。第1次流通革命は、1960年代でした。ダイエーやイオン、イトーヨーカドーといったチェーンストアが、それまでパパママストア(個人商店)が多かった小売の世界に参入してきて、急速に成長していったんです。このチェーンストアの成長が、日本の流通を大きく変えました。その後、コンビニエンスストアも出てきました。そんな第1次流通革命に匹敵するくらいの変革が起きているのが、今の状況です」

今起きている変化にはどういったものがありますでしょうか。

「例えば、コンビニの出店が減少しつつあります。もう、出店する場所がないし、営業時間も人手不足で24時間営業することができなくなってきている店舗があったりします。かつて、流通業界の覇者であった百貨店は市場規模が減少傾向で、今はピーク時の半分くらいの売り上げです。大きなチェーンのスーパーの1階に食品があって、2階に衣料品があって、3階に少し家具とかそういうのを置くというGMS業態も今は下降傾向にあります」

第1次流通革命で成長した業態の伸びが弱くなってきているのですね。では、先生が第2次流通革命だという今、伸びているのはどういった業態でしょうか。

「代わりに伸びてきているのは、まず、ネット通販です。これで既存の小売業のシェアが減少するいわゆるアマゾン・エフェクトが起きています。ECなどのネット通販は、いろいろデジタルの技術を使っているので、従来のビジネスモデルを変えています。大きな流通変革だと思います。その火付け役は、リアルの店舗を運営する企業ではなくて、Amazonとか楽天といったIT企業です。こういった企業の成長からわかるように、小売業界でのネット通販が伸びているこの傾向は今後もしばらく続くと思います」

リアルの店舗はどうですか。

「リアル店舗ではドラックストアが伸びていますね。これは、規模を拡大することで成長しています。例えば、多くのドラッグストアが食品の扱い比率が高くなっています。食品を低価格で販売することによって集客して、主たる利益は薬や化粧品で確保するビジネスモデルになっています。したがって、ドラックストア同士の競合だけではなく、スーパーも競合になってきています。しかし、今は成長していますが、チェーン間の差別化は次第に難しくなってきていると思います」

伸びているドラックストアでも課題があるのですね。では、リアルの店舗ではどういった対応策が必要なのでしょうか。

「そうですね、先ほども述べたように小売・流通業界ではネット通販が伸びている、この傾向は今後もしばらく続くと思います。したがって、リアルの小売業でもデジタル化をすすめなければいけないと思います。ネット通販はネットの強みがあるし、リアルはリアルの強みがあります。だから、ECサイトと同じことをするのではなくて、リアルの強みを活かしてデジタル化を進めることが既存の小売業の対応策ですね」

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リアルの良さを活かすデジタル活用というとどういったものがありますでしょうか。

「リアルの良さは、実際の商品を手に取れるとか、たくさんの中から自分で選べるという“楽しさ”を提供できるところです。じゃあ逆にリアルな店舗に行ったときに、ストレスを感じるのはどんな時だと思いますか」

混雑するレジに並んでいる時などでしょうか。

「そうですよね。レジが並んでいると、そこでお客さんはストレスを感じるし、買い物をやめてしまうこともあります。だから、レジをスムーズにするキャッシュレス決済が進んできています。ICカードとかスマートフォンのQR決済とか最近増えてきましたよね。実は、日本は今、まだ2割程度で韓国の9割、中国の8割に比べると、それほど進んでいるというわけではないのですが、今後は進んでいくと考えています。そして、このキャッシュレス決済が進んでいくと、“誰が何を買ったのか”っていうことが分かるようになります。したがって、小売・流通業界ではPOSデータとあわせて、その顧客データをどう使うかっていうことを考えなきゃいけない。今までもポイントプログラムのデータとかありましたが、全ての人がポイントカードを出すわけではなかったので、あまり多くのデータを取得できませんでした。そこにキャッシュレス決済のデータが入ることで、より多くのお客さんのデータを取れるような環境ができてくる、ということになります」

お客さんのデータをとれるようになってくるとどういったことができるのでしょうか。

「人によっては気持ち悪く感じる人がいるかもしれないけれども、何を買っているのかがすべてわかるというふうになると、買っている商品から、例えば家族構成やどんな家に住んでいるかみたいなことも予測できたりします。そういったところから、パーソナライズされたレコメンデーションを行うこともできるようになります。Amazonの“この商品を買った人はこんな商品も買っています”というレコメンデーションありますが、あれと同じようなアプローチがリアルの店舗でもできるようになってくるというわけです。だから、小売業界では今、自社アプリをお客さんに持たせたり、LINE@等で会員登録させようとする動きが活発ですよね。お店に入ったときにそのアプリにログインさせて、どういった動きをして、どのくらい滞在して、何を買ったのか、をわかるようにしていきたいということです。そうすることで、パーソナライズされたアプローチをできるような仕組みの構築を進めているわけです」

なるほど。お客さん向け以外にも何かできたりするのでしょうか。

「お客さん対応の部分以外では、バックヤードの部分にもデータ活用は役立ちます。例えば、欠品のデータをバックヤードのロジスティクスの部分に活用できるようになってきています。POSデータで、売り上げがゼロっていうときがあるんですね。でも、商品が棚に置いてあって売れないのか、置いていなくて売れないのか、というのがなかなか分からないんですよ。そこで最近は、閉店後や開店前にロボットが棚の前を歩いてAIカメラを使って欠品状況のデータを取得する仕組みを導入して、その情報を基に商品の補充をしたりといったことができるようになりました。こういったデータの収集にRFIDタグという識別タグを使うか、AIカメラを使うかというところはいま議論がありますが、データで欠品対策や棚割り(※1)の効果検証をしていくにするという方向には進んでいっていると思います」

バックヤードの業務効率化にもデジタルが活躍するのですね。

「はい。先ほども述べましたが、ネット企業の成長はスピードが速く、ちょっと前まではそれに対抗するためにリアルの小売の企業の社長はみんなネットスーパーなどに参入しなきゃ、EC導入しなきゃと言っていました。でも、結局、ただECだけをやっても無駄なのが分かってきた。今からAmazonに勝てるわけがないですよ。一方、今はAmazonとかアリババもネット通販の限界が分かってきています。全てをネットで買う人はほとんどいないので、ネットで全てを売ることもできないわけです。やっぱり、リアルの店舗も必要なんです。そういうわけで、Amazonもアリババもリアル店舗を買い始めました。自分たちでリアルの店舗もつくって待ち構えるわけです。リアルとネットの垣根がなくなっていく、これをOMO(Online Merges with Offline)といいます」

確かに小売業界のデジタル活用というとOMOの取り組みは見聞きすることが多いですね。OMOでは、具体的にどういった取り組みがあるのでしょうか。

「OMOというのは、そもそもオンラインとオフライン、つまりECなどのネットとリアルの店舗の垣根を無くし、ユーザーがよりストレスがない購買体験を行うことで、購買意欲を掻き立てるマーケティングの概念です。取り組みとしては、オンラインがオフラインをマージするというパターンと、オフラインがオンラインをマージするパターン、どちらもあります。先ほど述べたAmazonやアリババがリアルの店舗を持ち始めたというのは前者、後者ではウォルマートの“オンライン・グローサリー・ピックアップ” (※2)等のサービスがあります。どちらにせよ、リアルの店舗の良さを活かしながら、デジタルでのデータ取得や活用に力を入れた取り組みになります」

OMOについて、いま、アメリカの事例について伺いましたが、日本だとどういった取り組みがありますか。

「まだ、具体的な事例はないと思います。日本のAmazonがどうリアルの店舗をマージしていくかというのは気になるところですが、現状はほとんど事例がない。先ほどのキャッシュレス決済や進んでいる企業だとAIカメラ、RFIDなども含め、技術的な面では、データを取る環境は整いつつありますが、日本の小売業ではそのデータの扱い方があまりわからないといった課題があってあまり進んでいないのではないかと思っています」

後編では、「日本でのOMOに向けた取り組み」、「日本の小売流通業のミライ」について迫ります。


中村 博(なかむら ひろし)
早稲田大学商学部卒業後、経営学博士(学習院大学)、専修大学商学部を経て、2008年より中央大学ビジネススクール(大学院戦略経営研究科)教授。専門分野はマーケティング。実務家時代に流通系シンクタンクで消費財メーカーおよび小売業のコンサルティングや教育を行ってきた経験を生かした、より実践的なマーケティング理論やマーチャンダイジング理論の開発や普及に努めている。

(※1)商品を陳列棚のどこに、どの位、陳列するかを計画すること。

(※2)OGPは、通常のECショップのようにインターネットを通じて商品を注文すると、その注文情報に合わせて、店舗内の商品を「パーソナルショッパー」と呼ばれるスタッフがピックアップし、顧客が店舗に受け取りに来た際に直接渡すサービス。

 

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