後編|京都市が取り組む データを活用した都市計画の見直しとは?
現在京都市では将来的な人口減少に対応するべく、歴史的な景観を保全しながら、オフィス空間や居住環境を創出しようと、都市計画見直しの検討を進めています。
その都市計画の見直しで活用されている手法が「EBPM(エビデンス・ベースト・ポリシー・メイキング)」です。“根拠に基づく政策立案”という意味で、見聞きした事例や経験に頼るのではなく、統計や業務データを政策立案に活用するというものです。
本記事では、京都市の都市計画見直しに携わっている京都市都市計画課の中井さんと阪本さんにお話を伺い、政策立案におけるデータ活用の実態についてインタビューしました。
後編ではマスタープラン実現に向けた有識者検討会での議論の内容や、近隣市町との連携の取り組みなどについてお話しいただきました。
目次
検討委員会について
- 都市計画マスタープランを踏まえて、実際にどのように都市計画を進めていくべきか、令和3年12月から令和4年9月にかけて開催された「京都市 駅周辺等にふさわしい都市機能検討委員会」で議論されました。
まずは検討委員会に参加されていた方について 教えてください。 今回の都市計画の見直しはまちの在り方に大きな影響を与える取り組みなので、都市計画を専門にされている方に加えて、経済や公共政策に詳しい先生がたにもご参加いただきました。まちづくりや商業振興など様々な観点に精通している方に関わっていただいたことで、当初から幅広い議論ができました。
- 検討委員会の議論はどのように進めていったのでしょうか?
検討委員会は全6回にわたって開催しました。まずマスタープランで示した5つのエリア(北部・南部・東部・西部・都心部)について「方面別カルテ」を作成し、現況や将来像について整理を行いました。そこから都市活力を伸ばすための新たな拠点や若い世代の心をつかむ 居住環境を創出するエリア、近隣市町と連携してまちづくりを行うエリアを選定し、現行の都市計画の規則(用途地域、容積率、高さ規制)が適切かどうか検証していきました。
各エリアの都市計画上の課題と対応の方向性を検討する際には京都市内の商業・業務機能の分布状況や、地域ごとの土地利用の状況等のデータを、課税情報などの非公開情報も活用しながら、詳細に整理、分析しました。
データを用いることで、「現状がこうなっているから変えないといけないですよね」と根拠のある説明ができましたし、さらにこうすれば良くなるだろうという仮説も立てられるので、非常に有効な手段だと感じました。
また、日ごろ京都市内の様子を身近で見ているので、各エリアにどんな建物があるのか、まちの持ち味は何なのかということも肌感覚として持っています。データだけではなく、普段京都市にいて感じることもふまえて仮説を検証していきました。
パブリックコメントについて
- 都市計画見直しの検討にあたって市民からのパブリックコメントを募集していましたが、見直しに対してのネガティブなコメントについてはどのように説明を試みているのでしょうか?
今回の都市計画の見直しは「高さ制限の緩和」という観点が強調されることがとても多いので、単純に規制緩和をするのではなく、私たちがどんなまちを目指しているのかについてしっかり説明することを意識しました。
市民に向けた説明会などの機会を通じて、私たちがどのような分析をし、どのような考え方で都市計画の見直しを検討しているのかについてできるだけわかりやすくお伝えするようにしていました。
また、大学に出向いて学生さんのご意見を聞いたり、自治会の方々に集まってもらって話をしたりして、様々な形で意見を集めるように心がけていました。
それでも高さ制限の緩和による景観の悪化を危惧して見直しに反対する方はいらっしゃいます。完全に理解いただくことは難しいかもしれませんが、わたしたちがデータの分析に基づいて、どういうことを考えて見直しの検討に至ったのかについて引き続き丁寧に説明していきたいと思っています。
全部で2445件(869通)もの多くの意見が寄せられ ました。今回は20代から30代の若い方や、子育て世代の方に京都の魅力を感じてもらうためにどのようにまちづくりをしていくかが大きなテーマでしたが、特にその世代の方から「頑張ってほしい」というご意見をたくさんいただけたので、とても励みになりました。
また、私たちが公表しているデータを見て、「都市計画の見直しに際してすごく議論されていることを知りました」という応援のメッセージもいただきます。若い世代の方が自分たちの将来について危機感を持っていらっしゃるということがよくわかりました。
近隣市町とのネットワーク
- 都市計画マスタープランでは「近隣都市との一体性や相互の効果を踏まえた都市圏の強化」を新たな視点として記載していますが、マスタープランの見直しにあたって、近隣の市町と構想をすり合わせていったのでしょうか?
以前は近隣市町と京都市とではまちづくりにおいて取り組んでいる内容や方向性が異なると思っていたので連携の意義をあまり感じていませんでした。
しかし、人口減少の問題に直面した時に近隣市町の企業誘致などの取り組みを目の当たりにして「このままでいいのか」という危機感が芽生えたことや、近隣市町の取り組みが身近になれば 京都市が都市計画を見直す際の参考にもなるという考えもあり、もう少し視野を広げて、周りの市町と一体的に都市を発展させていこうという方針に切り替えました。
そして実際にこちらから向日市や宇治市、久御山町などの都市計画関連部局にお声がけしたことで徐々にネットワークが生まれていて 、市境を走っている道路の周辺をどう発展させていくか相談したり、一緒に都市計画の見直しを進めていきましょうという話が上がっています。
- 京都府内の市町同士のネットワークが生まれているというのはかなり画期的なことなのですね。近隣市町と連携することで、まちづくりの考え方に変化はありましたか?
近隣市町との連携を密にしながらも京都市らしさは大事にしたいと思っています。現在の土地利用の状況がどうなっているかというベースのデータから今後それがどう変わっていくかを整理して見直しを進めているので、単純に周辺の市町と同じことを京都市でもやっていくというのではなくて、周辺と比べて規制などのギャップが大きい所を徐々に埋めていくという感じでしょうか。
例えば住宅については既存の住宅地の利便性を維持し続けることも重要なので、他の地域でタワーマンションが建設されたからといって必ずしもそれに追随するわけではないです。20年後、30年後にどんなまちにしたいかということも考えながら、思い切って開発していくところと保全していくところを委員会でも議論しつつ模索してきました。
委員会や、市民の方のそれぞれのご意見を取りまとめて、市として最後に方針を決定するのは大変な作業なのですが、そういう時にどれだけデータを分析して、データに基づいて考えてきたかということが市民に対しても庁内の意思決定の過程においても納得感のある説明につながっているのではないかなと思います。
今後について
- 今年の春に都市計画の見直しが行われた後、どのようにまちづくりを進めていくのでしょうか?
今回の都市計画の見直しは京都市にとって非常にインパクトがある取り組みだと捉えているのですが、ただ都市計画を見直すだけでまちが変わるわけではないので、京都市の様々な政策を連動させていく必要があると考えています。
例えば、企業誘致の観点では都市計画の見直しと連動させた「京都市企業立地促進プロジェクト」構想をとりまとめ、市内の各地域の特色を生かした企業誘致の促進を目指しています。
さらに、企業誘致だけではなく、いかに京都市に移住・定住してもらうかという観点も含めて様々な施策を連動させてパッケージ化していくことが重要だと思います。来年度からはいよいよマスタープランに掲げた将来像の実現に向けた施策を実施していく予定なので、ぜひ京都市の取り組みに関心を持っていただきたいです。
(取材日:2022年12月23日)
インタビュイー
京都市都市計画課
土地利用計画担当課長 中井 健一様(写真右)
調整担当課長 阪本 健様(写真左)
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