「ミライの種」 JR九州 赤木執行役員熊本支社長インタビュー 後編
各分野における経営のプロフェッショナルたちが考える未来への戦略、未来への投資、そして未来像とは?過去から現在、そして未来の花咲くカギとなる「種」とはどんな姿なのか?その「歩み」を辿りながら「ミライの種」に迫ります。
▼前編に引き続き、インタビューとしてお話をお伺いするのは、九州旅客鉄道株式会社における初の女性部長、初の女性グループ会社社長への抜擢、2019年6月には熊本支社長就任と躍進を続ける赤木由美(あかぎ ゆみ)さん。女性ならではの目線で様々な事業を拡大・拡張させてきた軌跡から、震災や豪雨などの復興に励む熊本の支社長として奮闘する日々、企業人、一人の女性として、その目に映るミライの姿をお話しいただきます。
「人が創り出すミライの種」
JR九州の取り組みについてお伺いします。前編では、線路点検、法面状況確認などでのIoT活用や、AIを使ったデータ予測などの実証実験を始めているとお聞きしました。今御社では、IoTを使った取り組みが加速しているのでしょうか?
「本来ならばインフラを担う鉄道事業者は他よりも一歩、二歩先を行くべき業種だと思います。しかし、残念ながらまだまだ遅れているといった印象です。今後はAIやRPAなどを積極的に活用し業務効率化を進める必要があります。そうすることでシステムに担わせる部分と、人が担う部分の棲み分けが進むと思います。一方で、JR九州グループは人がいなければ成り立たない会社です。少し話は逸れますが、JR九州が民営化した30数年前、おそらく上場することを予見できた人はいなかったんじゃないかと。でもJR九州のメンバー、つまり社員が面白く、そして挑戦好きであったことが会社を大きく成長させ3年前の上場が果たせた。そういう意味でも、やはり最終的には人が重要だと思っています」
当時、同じベクトルで突き進む人々の結束力が強かったんですね。それでは現在の社員や新卒で新たに入社する方々はいかがですか?
「人事部にいた頃は直接採用面接もしていました。総じていうと、最近の学生はとても優秀でまじめ、素直な人が多い印象です。私たち平成3年入社組は、優秀でも素直でもなく、みんな風変り。頑固で人の言うことを聞かない人が多かったんです。入社25年目で永年勤続表彰を受けるのですが、その際、唐池現会長から言われたはなむけの言葉は「平成3年当時、まだ不安定だったわが社を選び入社した君たちの勇気を僕は凄いと思うし、ある意味変わり者だと思う。そしてこの会社で25年も勤め上げてくれた君たち、功績があったかどうかは分からないが、心から尊敬する」という、ちょっと私たちをいじるような、それでいて温かみを感じる言葉をいただき素直にうれしかったですね。何が起こるかわからない中、自分達がやりたいことを言葉にし手を挙げる、手を挙げた以上やりきる、そんな風に切磋琢磨してきたからこそ、今ここにいるんだと改めて思うのです。時代に合わせ、求められる人材は変化していくと思いますが、私が人事の時から常に発信していた言葉は、挑戦することを忘れない人達に我が社の門を叩いて欲しいという願いでした」
若手ビジネスパーソンは、どういったことを大切にすべきだとお考えですか。
「これは若い人だけではなく、我々も同じだと思うんですが、「失敗を恐れない貪欲さ」が重要であると思います。私が入社した28年前、社員は前を向き同じ目標に向かってがむしゃらに突き進んでいました。一度潰れて再生しようとしている会社、みんなが必死にならなければまた昔に戻ってしてしまう、それじゃダメだ!とにかくやろう!という貪欲さがありました。釣り堀や温浴施設、トンネルでのキノコ作りなど、結果として上手くいかなかったものも含め多種多様な事業へのチャレンジにつながったのです。挑戦を続けることで自分たちの強みを知り、成長と進化を目指した結果、上手くいった事業が現在の会社の礎となっているのです。最近の若手だけの話ではないのですが、やっぱり人間は失敗が怖いんですよ。私自身も失いつつあるかもしれませんが、これからも貪欲さを大切にすべきだと思います」
社員教育については、どのような教育モデルをお持ちですか?
「一生懸命本を読む、資格を取るなど、自助努力で自分を高めることはできると思うのですが、コミュニケーション能力については、なかなか備わっていない社員も多く、集合研修を積極的に取り入れるようにしています。研修センターに一堂に会し、人と人とのコミュニケーションや、管理者として部下社員との接し方、部下社員のモチベーションの上げ方など、人間力を高めることにも注力しています」
社員評価軸も重要なポイントですよね。
「人事考課制度を導入し、社員が納得感を持てるような形で年2回実施しています。半期毎に各人が自分自身の目標を掲げ、それに対し上司が必要に応じてフィードバック面談を行う、そこで目標達成に向けたアドバイスをしたり、方向性を示したりする、その上で実績や進捗度合などを見て評価するというものです。こうしたことを細やかに行うことで社員個人も各部署も、そして会社もミッションを達成し成長していけるのだと考えています。また、考課者研修も行っており、評価をする側の目線を揃えることにも力を入れています。
弊社の人事考課は、たとえ失敗に終わったとしても前向きに挑戦した人、努力した人も評価できる細かな視点で作られた仕組みです。一方で評価だけしていても人は育たない。私の持論ですが、日頃からどんな小さなことでも成果を出せば最大限褒める、叱る時は1対1、しっかり時間を設け個室で話すべき、と管理職社員には伝えています。コミュニケーションツールは非常に便利ですし効率的ですが、メールは一方通行なので怒りなどの感情がエスカレートするし、電話などは顔が見えない分、売り言葉に買い言葉となってしまう。叱るとか褒めるとか本当に一番大事な時にはツールに頼らずFace to Faceで話す事が重要であると思っています」
「赤木由美さんのミライの種」
最後に赤木さんご自身のミライの種についてです。赤木さんご自身は、すばらしいステップアップでキャリアを積まれてるいると思います。今後の赤木さんの未来の姿はどのように想像されていますか?
「私の会社人生28年を振り返ると、とにかく人に恵まれ、とてもラッキーな人生だったと感じます。中でも大きな転機は子供を産む時でした。当時社内には、子供を産んだ社員の前例がなく、産休や育休が取れるかが不安でした。辞める事も覚悟し上司に相談すると、上司の第一声は「いつ戻ってくるの?」だったんです。その一言に、休んでいいんだ、戻ってきていいんだ、と安堵しこの上司との出会いに心から感謝しました。
もちろん、会社を辞めようと思ったことも2度や3度あります。そういう時に同僚や先輩から励まされたり、何より同期から「まだなにも成し遂げてなくて爪痕残せてないのに、それで辞めたら絶対後悔するよ。私はJR九州でこんなことやったよと言えるようになってから辞めなよ」と言われたことは大きかったです。会社にとって、そして会社で働く仲間にとって、この人が必要だと引き止められる自分になる、それを目標にしようと決め、また上のステージを目指す。そうやって自分の中で少しずつハードルを越えてきました。どんな小さなことでもチームで成し遂げる。成し遂げた暁には、お疲れ様と皆で乾杯する。仕事は明るく楽しく元気よく、そしてオンとオフを切り替えて、仕事の後はみんなで楽しくビールで乾杯!これが私のモットーですしこの先も変わらないと思います」
最後にあなたのミライの種とは何ですか
「私のミライの種は人です」
JR九州グループで働く人、そして九州に集う人、そのご家族、みんなが集まってこの会社この地域が成り立っていると思うからです。
赤木 由美
早稲田大学第一文学部卒業後、1991年九州旅客鉄道株式会社に入社。広報や営業、経営企画部門を担当し、2004年、九州新幹線部分開業の時にはプロモーションを手掛ける。2012年3月に初の女性部長になり、同年6月、JR九州ファーストフーズ株式会社の代表取締役社長に就任。JR九州グループで初の女性社長に抜擢された。2014年7月、退任に伴い九州旅客鉄道株式会社総務部担当部長、人事部長、鉄道事業本部サービス部長兼営業部長を歴任。2018年6月より女性初の執行役員に就任。
執行役員・熊本支社長赤木由美。
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