
2025年問題に直面する物流業界が取り組むべき対応策
物流業界は2025年度に向けて複合的な課題に直面し、大きな変革を迫られています。労働力人口の減少による深刻なドライバー不足や、改正物流総合効率化法の施行など、複数の課題が重なり、省力化を目指したデジタライゼーションが緊要とされています。
本記事では、2024年問題の影響が続く中で、物流業界が直面する課題と具体的な影響を解説するとともに、企業が今から取り組むべき実践的な対応策について詳しく説明します
目次
物流業界における2025年問題の本質
物流業界が直面する2025年問題は、単なる人手不足の問題ではありません。人口動態の変化、法規制の強化、デジタル化への対応など、複合的な要因が重なって発生する構造的な課題です。この問題に効果的に対応するためには、まず課題の本質を正しく理解する必要があります。
深刻化するドライバー不足の実態
物流業界では現役ドライバー高齢化による減少に加えて、若手ドライバーの確保が難しく人手不足が常態化しています。この背景には、長時間労働や不規則な勤務形態が若い世代の就業を妨げる要因となり、業界全体で働き方改革が大きな課題となっています。
改正物流総合効率化法の影響
近年、物流に関する法規制の強化が進んでおり、改正物流総合効率化法が2024年5月15日に公布されました。この法律は、物流業務の効率化とドライバーの労働環境改善を目的としており、一部の規定を除き2025年5月までに段階的に施行される予定です。
主な改正内容としては、荷主企業や物流事業者に対して物流効率化のための努力義務が課されること、中長期計画の作成や定期報告が特定事業者に義務付けられること、さらに荷主企業には物流統括管理者の選任が求められることが挙げられます。また、適正な運賃設定や荷役作業時間の短縮など、商慣行の見直しも重要なポイントとなっています。
これらの規制はドライバー不足や労働環境改善を目的としており、対応が遅れると特に中小企業においては経営負担が増し、事業継続に深刻な影響を及ぼす可能性があります。そのため、早急な準備と計画的な対応が求められます。
デジタル化対応の遅れがもたらすリスク
多くの物流企業では、まだアナログな業務プロセスが残されています。配車管理や在庫管理などの基幹業務のデジタル化が遅れ、業務効率の改善が進んでいません。この対応の遅れは、人手不足がさらに深刻化する現在、企業の競争力を大きく低下させる要因となります。
2025年問題が物流現場にもたらす影響
2025年問題は、物流業界全体において輸送能力の低下や人件費の上昇、サービス品質の低下など、幅広い影響を及ぼすとされています。これらは特に、配送業務や物流プロセス全般における具体的な課題として顕在化します。このような影響を理解することは、効果的な対策を講じるうえで重要です。実際の現場で起こりうる問題を把握することで、より実効性の高い対策を立てることができます。
※注釈:「2025年問題」とは、日本全体で高齢化が進み、生産年齢人口が減少することで経済や社会に多大な影響を及ぼすとされる課題を指します。物流業界では特にドライバー不足の深刻化や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の遅れによる業務効率低下が問題視されています。
輸送能力の低下と配送遅延
ドライバー不足により、1日あたりの配送可能件数が大幅に減少。なかでも、都市部での細かな配送や地方での長距離輸送において、深刻な影響が出る可能性があり、荷主企業との信頼関係にも悪影響を及ぼすリスクがあります。
さらに、繁忙期には需要に対応しきれず、物流網全体が混乱する恐れもあります。これらの問題は、物流業界全体の安定性を揺るがしかねません。
人件費上昇による収益性の悪化
人手不足を補うために、ドライバーの人件費や運賃が上昇し、特に中小企業の経営を圧迫しています。加えて、2020年以降のコロナ禍の影響で車両関連コストも継続的に増加しています。具体的には、2019年度比で整備費用が2020年度に4.1%増、2021年度に3.9%増、2022年度に5.0%増と年々上昇傾向にあります。
また、補修部品の価格も2021年度には2019年度比でエンジンオイルが5.2%、バッテリーが8.0%、夏タイヤが12.3%と軒並み上昇し、2022年度はさらに加速して夏タイヤが前年比7.2%、冬タイヤが9.5%、ホイールに至っては23.6%もの上昇を記録しています。これらの燃料費や車両維持費などのコスト増加が重なり、収益構造の見直しが急務となっています。
特に、小規模な運送業者では価格競争力を維持することが難しくなり、事業継続が困難になるケースも予想されます。このような状況では、新たな収益モデルや付加価値サービスの導入が求められるでしょう。
サービス品質への影響
配送遅延以外にも、ドライバー不足や業務負担の増加はサービス品質の低下を招く要因となります。例えば、商品の取り扱いが雑になることで破損や汚損が発生しやすくなったり、温度・湿度管理が不十分で食品や医薬品などの品質が劣化するリスクが高まります。また、誤配送や紛失といったトラブルも増加する可能性があります。
さらに、問い合わせ対応の遅れや不十分な情報提供も顧客体験を損ねる一因となります。これらの要因が積み重なることで、顧客満足度の低下だけでなく、企業ブランドへの悪影響やリピート利用の減少といった深刻な結果を招く可能性があります。
中小企業における事業継続性の危機
大手企業と比べて経営資源の限られる中小企業は、人材確保や設備投資が困難になり、事業継続の危機に直面する可能性があります。独自の配送網を持つ企業では、その維持が大きな課題となっています。
また、新たな規制への対応やデジタル技術導入への投資負担も重く、中長期的な競争力強化が難しい状況です。このような中で、生き残りを図るためには地域密着型サービスへの特化や他社との連携による効率化など、新たな戦略が求められます。
物流企業が今から取り組むべき実践的な対策
限られた時間を有効活用し、物流業務の効率化や持続可能な体制の構築に向けて、計画的かつ着実に対策するのは、一朝一夕には実現できませんが、現状を正確に把握し、具体的な施策を段階的に進めることで、課題解決への道筋をつけることができます。
多くの物流企業がすでに業務プロセスの見直しや効率化に取り組んでいますが、人手不足という根本的な課題を解決するためには、デジタル技術を活用した抜本的な改革が必要です。
たとえば、クラウドベースの物流管理システムの導入により、配車計画の作成時間を大幅に短縮し、ペーパーレス化による事務作業の削減を実現できます。またAIを活用した配送ルートの最適化や、IoTデバイスによる貨物追跡は、少ない人員でも効率的な配送を可能にします。
熊本県の運送会社ヒサノでは、従来紙ベースで管理していた配車業務をクラウドシステム化することで、業務効率を大幅に向上させました。この取り組みにより、配車計画の迅速化と情報共有の円滑化を実現し、担当者間のコミュニケーションが改善されました。さらに、佐川急便では、仕分け業務にロボットソーターを導入し、人員を27%削減しつつ作業時間の短縮と生産性向上に成功しています。
出典:【物流業】DX推進事例5選|DX SQUARE 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)
業務の標準化においても、デジタル技術は大きな力を発揮します。デジタルマニュアルやタブレット端末を活用した作業指示により、経験の浅い従業員でも一定水準の作業品質を維持できるようになります。これは、若手ドライバーの早期戦力化や外国人労働者の活用においても効果的です。多言語対応の業務管理アプリやAI翻訳ツールの導入により、言語バリアを解消し、多様な人材が活躍できる環境を整えることができます。
荷主企業との協力体制構築にもデジタル連携が効果的です。福岡運輸株式会社では、自社開発の『バース予約・受付システム』を導入し、携帯電話と連動した通知機能により乗務員の待機時間を大幅に削減しました。このシステムは、倉庫周辺での待機トラック削減や物流効率の向上に貢献するとともに、荷主企業との情報共有を可能にすることで、物流全体の連携強化にも寄与しています。複数荷主の貨物を効率的に組み合わせた共同配送も実現しやすくなります。
出典:物流・配送会社のための物流DX導入事例集 ~中小物流事業者の自動化・機械化やデジタル化の推進に向けて~ – 国土交通省
さらに、倉庫内作業のロボット化や自動仕分けシステムの導入は、24時間稼働体制を可能にし、人員配置を効率化できる可能性があります。デジタルツインを活用した倉庫レイアウトの最適化により、作業効率を30%向上させた企業も出てきています。
これらのデジタル化対応には初期コストがかかりますが、国土交通省が主導して実施している「物流施設におけるDX推進実証事業費補助金」や、その他国や自治体が提供する補助金制度、(デジタル化補助金・IT導入補助金)を活用することでコストを軽減できます。導入に際しては、まず小規模なテスト運用から始め、効果を確認しながら段階的に展開することが重要です。計画的なデジタル投資と段階的な実装により、持続可能な物流体制の構築が可能となるでしょう。
補助金については、物流運送業で使える補助金と助成金!話題のITシステムの導入に使える補助金も紹介もぜひ参考にしてください。
成功事例から学ぶ効果的な取り組み方
物流業界では、2025年問題に対応するためのさまざまな成功事例が注目されています。中小企業や大手企業、地域特性を活かした取り組みから学べるポイントを以下にまとめました。
中小企業における成功事例
疋田産業株式会社では、県内企業2社と連携し、共同配送体制の構築を進めるとともに、DXにも積極的に取り組んでいます。同社はAI-OCRを活用した注文データの自動入力やRPAによる定型業務の自動化を導入し、業務効率化を実現しています。これらのデジタル技術を活用することで、共同配送体制の効率化やコスト削減に寄与しています。また、DX推進チームを結成し、組織横断的な取り組みを通じてデジタル化を加速させています。
これらの事例から、中小企業が地域や分野を絞り込み、自社の強みを活かした戦略が有効であることがわかります。
出典:県内2社と連携し、共同配送の実現へ DXにも力を注ぐ ~疋田産業(株) – 情報誌ISICO
大手物流企業の戦略的アプローチ
えば、ヤマト運輸はIoTセンサーやモバイル端末を活用して配送プロセスの可視化と自動化を推進しています。これにより配送ルートの最適化や在庫管理の効率化が実現され、業務スピードアップとミス削減につながりました。
さらに、一部の企業では物流倉庫にAGV(無人搬送車)やロボット技術を導入し、作業効率化と従業員の負担軽減に成功しています。このようなデジタル投資は段階的に行われることが多く、初期投資コストを抑えながら着実に効果を上げる点も特徴です。
これらの取り組みは、大手企業ならではの資本力と技術力を活かした戦略として注目されています。
地域特性を活かした解決策
地域特性に応じた物流モデルの構築は、効率化と地域課題の解決を目指すうえで重要です。例えば、富山県南砺市では、モバイル通信を活用したドローンによる目視外自律飛行の実証実験が行われ、片道8kmの物資搬送に成功しました。この取り組みは、中山間地域における買い物困難者への支援や物流効率化の可能性を示すものであり、今後のビジネスモデル構築に向けた課題検証が進められています。また、小菅村では、ドローンデポ®を拠点にラストワンマイル配送を展開し、物流効率と住民サービスの向上を図っています。
地域ごとの課題やニーズに応じたきめ細かな解決策は、新たなビジネスモデルとして広がりつつあります。
まとめ
2025年問題は物流業界全体に大きな影響を与えることが予想されますが、適切な準備と対策を講じることで、この危機を成長の機会に変えることができます。特に、デジタル技術の活用や業務プロセスの効率化は、物流業務の省力化や持続可能性向上において欠かせない要素です。配車管理システムや自動化技術の導入といった具体的な施策を進めることで、人手不足やコスト増といった課題に対応する道筋が見えてきます。
また、荷主企業との協力関係を深め、物流業界全体で解決策を模索していく必要があります。今から計画的に対策を進めることで、2025年以降も持続可能な物流サービスの提供が可能となるでしょう。
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